あらすじ
芥川竜之介は、犬養君の創作に対する深い関心を抱いています。犬養君の丁寧な作品は、繊細で美しく、若々しい柳のようにしなやかだと評しています。しかし、その丁寧さゆえに、暗示する力に欠けるという指摘もしています。芥川竜之介は、犬養君との出会いを思い出し、彼の作品に込められた丹念さの裏側に、興味深い秘密を見出しているようです。それから又犬養君の作品はどれも皆柔かに美しいものである。こう云う柔かい美しさは一寸他の作家達には発見出来ない。僕はそこに若々しい一本の柳に似た感じを受けている。
いつか僕は仕事をしかけた犬養君に会った事があった。その時僕の見た犬養君の顔は(若し失礼でないとすれば)女人と交った後のようだった。僕は犬養君を思い出す度にかならずこの顔を思い出している。同時に又犬養君の作品の如何にも丹念に出来上っているのも偶然ではないと思っている。
了
底本:「大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ」講談社文芸文庫、講談社
1995(平成7)年1月10日第1刷発行
底本の親本:「芥川龍之介全集 第一〜九、一二巻」岩波書店
1977(昭和52)年7、9〜12月、1978(昭和53)年1〜4、7月発行
入力:向井樹里
校正:砂場清隆
2007年2月12日作成
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