あらすじ
道行く道子さんは、小さな赤ちゃんの抱っこを頼まれます。赤ちゃんは道子さんの顔を見て微笑みます。道子さんは、その愛らしい姿に心を奪われ、まだ抱っこしているような気持ちで家に帰ります。母親は道子さんの様子を見て、少し不思議に思います。アカチヤンハ、ブウブウ イヒナガラ、カアチヤンノ ジヤマシテ ヰマシタ。
ミチコサンハ、オバサンノ ソバニ ヨツテ、
「アカチヤン ダイテテ アゲマセウカ。」ト イヒマシタ。
「エエ アリガタウ、デモ オイタボウデ、トツテモ オモイノヨ。」
「イイワ オバサン。」
「スミマセンネ。」
オバサンハ アカチヤンヲ ミチコサンニ ダツコサセテ クレマシタ。ミチコサンノ ウデニ、オチチクサイ、シロイ パヂヤマノ カハイラシイ アカチヤンガ、ダカレマシタ。
ミチコサンハ、
「チユツチユツ、ホラホラ。」ト コトリヲ ミセテ ヤリマシタ。
ケレド、アカチヤンハ、コトリヲ ミナイデ、ミチコサンノ カホヲ ミテ ヰテ ニツコリ ワラヒマシタ。ソレカラ、オテテデ ミチコサンノ ネクタイヲ ツカミマシタ。ミチコサンハ、カワイイ テダナト オモヒマシタ。
ソノ ウチニ オバサンハ スツカリ ウバグルマノ ナカヲ カタヅケテ、
「スミマセンデシタ、ホントウニ。」ト イイマシタ。アカチヤンハ マタ ウバグルマニ ノツケラレテ、イツテ シマヒマシタ。
ミチコサンハ、マダ アカチヤンヲ ダツコシテルヤウナ テツキヲ シテ オウチヘ カヘツテ キマシタ。
オカアサンハ ミチコサンヲ ミルト、
「ナニヲ ソンナ オカシナ テツキ シテルノ。」ト、フシギサウナ カホヲ シマシタ。
「ワタシネ、ドコカノ カワイイ アカチヤンヲ ダツコシタノヨ。ワタシノ カホヲ ミテ ワラツタワ。」
「フーン。」
「アンマリ、カワイカツタノデ、マダ ダツコシテル ツモリデ カヘツテ キタノヨ。オカアサン、ホラ オチチノ ニホヒガ シテルワ。」ト イツテ ミチコサンハ ムネノ アタリヲ カギマシタ。オカアサンハ、ミチコサンハ イヽ コダナト オモイマシタ。
了
底本:「校定 新美南吉全集第四巻」大日本図書
1980(昭和55)年9月30日初版第1刷発行
1987年(昭和62)年2月15日第3刷発行
初出:「ろばの びっこ」羽田書店
1950(昭和25)年6月5日
入力:高松理恵美
校正:川向直樹
2004年7月15日作成
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