あらすじ
ある日、一人の行商人が、籠に入ったウサギを連れてやってきます。彼は、ウサギを「ロバの子」だと称し、通りかかった農夫に売り込みます。農夫は、ウサギが小さくても、いずれ大きく成長すると信じ込み、ウサギを買い取ります。しかし、ウサギは成長するどころか、いつまでも小さなままでした。農夫は、大きなロバのために作った立派な荷車をウサギに引かせようとしますが、ウサギは全く動こうとしません。農夫の期待とは裏腹に、ウサギは小さくて力のないままで、農夫は困惑してしまいます。
 ヒトリノ アキナヒガ ヤツテ キマシタ。
 ウサギノ ハイツタ カゴヲ モツテ ヲリマシタ。
 ソノ クセ、
「ロバノ コハ イリマセンカ、ロバノ コ」
ト ヨンデ アルキマシタ。
 チヤウサンハ チヨウド、ロバガ イツピキ ホシイト オモツテ ヰタ トコロデシタノデ、アキナヒノ モツテ ヰル カゴヲ ノゾイテ ミマシタ。
「ヤア、チヒサイネ」
「コドモデスカラネ」
「コレデハ、オトナニ ナツテモ アマリ オホキク ナリマスマイ」
「イヤイヤ オトナニ ナツタラ、コヤクラヰノ オホキサニ ナル」
「ダマサウタツテ ダメダヨ」
「ホントウデスヨ。ゴランナサイ コノ ミミノ ナガイ コトヲ。コレガ オホキク ナル シヨウコデス」
 ミルト ナルホド、ナガイ ミミガ フタツ、ニヨツキリ ハエテ ヰマス。
 ソコデ チヤウサンハ ウサギト シラズニ カヒマシタ。
 サテ チヤウサンハ ウチニ カヘルト、サツソク、ロバニ ヒカセル クルマヲ ツクリハジメマシタ。
 ナニシロ、イマニ、コヤミタイニ オホキナ ロバニ ナルト イフノデスカラ、チヒサナ クルマデハ マニアヒマセン。
 ソコデ、ウマヤホドノ クルマヲ ツクツタノデ アリマシタ。
 クルマハ デキアガリマシタ。トコロガ ウサギノ ハウハ イクラ ダイジニ シテ ヤツテモ、チツトモ オホキク ナリマセン。
 タウトウ チヤウサンハ ハラヲ タテテ シマヒマシタ。
「モウ ガマンガ デキナイ。ケフハ クルマヲ ヒカセテ ミヨウ」
 ソコデ ウサギハ クルマニ シバリツケラレマシタ。
 チヤウサンハ クルマニ ノツテ ムチヲ フリアゲ、
「シーツ」
ト イヒマシタ。
 ウサギハ、ソンナ コトニハ オカマヒ ナシニ、ミチバタノ クサヲ タベテ ヲリマシタ。イクラ シカツテモ ダメデ アリマシタ。
「ヤレヤレ」
ト チヤウサンハ、タウトウ クルマノ ナカニ ヘタバツテ シマヒマシタ。

底本:「校定 新美南吉全集第四巻」大日本図書
   1980(昭和55)年9月30日初版第1刷発行
初出:「ろばの びっこ」羽田書店
   1950(昭和25)年6月5日
入力:川向直樹
校正:高松理恵美
2004年9月25日作成
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