あらすじ
山寺のお坊さんが病気になったため、代わりに小僧さんが檀家へお経を読みに出かけます。道中、小僧さんは遊びに夢中になってしまい、お経を忘れてしまいます。困り果てた小僧さんに、出会ったうさぎが、お経の代わりに歌を教えます。小僧さんは、うさぎに教わった歌を檀家で披露すると、人々は驚きと喜びで包まれます。
 やまでらの おしょうさんが びょうきに なりましたので、かわりに こぞうさんが だんかへ おきょうを よみに いきました。
 おきょうを わすれないように、こぞうさんは みちみち よんで いきました。

キミョ
ムリョ
ジュノ
ライ

 すると なたねばたけの なかに うさぎが いて、
「こぼうず あおぼうず。」
と よびました。
「なんだい。」
「あそんで おいきよ。」
 そこで、こぞうさんは うさぎと あそびました。しばらく すると、
「やっ しまった。おきょうを わすれちゃった。」
と こぞうさんが さけびました。
 すると うさぎは、
「そんなら おきょうの かわりに、

むこうの ほそみち
ぼたんが さいた

と おうたいよ。」
と おしえました。
 こぞうさんは だんかへ いきました。そして、うさぎの おしえて くれたように、ほとけさまの まえで、

むこうの ほそみち
ぼたんが さいた
さいた さいた
ぼたんが さいた

と かわいい こえで うたいました。
 きいて いた ひとびとは びっくり して 目を ぱちくり させました。それから くすくす わらいだしました。こんな かわいい おきょうは きいた ことが ありません。
 そこで、ごほうじが すむと、だんかの ごしゅじんは すました かおで、
「はい、ごくろうさま。」
と、おまんじゅうを こぞうさんに あげました。
「ごちそうさま。」
と こぞうさんは おまんじゅうを いただいて たもとに いれました。
 こぞうさんは、かえりに その おまんじゅうを、さっきの うさぎに わけて やる ことを わすれませんでした。

底本:「ごんぎつね 新美南吉童話作品集1」てのり文庫、大日本図書
   1988(昭和63)年7月8日第1刷発行
底本の親本:「校定 新美南吉全集」大日本図書
入力:めいこ
校正:鈴木厚司、もりみつじゅんじ
2003年9月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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