「死んだ、死んだ。」
お仙の顔は暫く硬直したままであったが、ピクリと頬の一角が崩れると、※[#「女+可」、U+59B8、91-8]娜っぽい微笑に変った。それからお仙はともかく隣りの主人と一緒に家へ急いだ。
家へ戻ると、お仙は直ぐに夫の顔を覗き込んだ。お仙の夫は蒲団に寝かされたまま、頭が低く枕に沈んでゐるので、何か怒ってゐるやうな表情であった。その顔を見てゐると、お仙はふと夫が生きて来さうな気がした。と、その時、お仙の夫は急に「うう……」と声を放って眼をひらいた。
「あなたや、あなたや……」とお仙は大声で泣き喚いた。
底本:「普及版 原民喜全集第一巻」芳賀書店
1966(昭和41)年2月15日初版発行
入力:蒋龍
校正:伊藤時也
2013年1月24日作成
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