オシヨウガツ キタヨ
コンドハ イクツ

コンドハ 六ツ
キヨネンハ 五ツ

七ツニ ナレバ
ガツカウヘ イクヨ

ランドセル シヨツテ
ゴホンヲ イレテ

アミアゲ ハイテ
ボウシヲ カブリ

オテテヲ フツテ
ヒトリデ イクヨ


年の初めの
神まゐり

お手々合はせて
お社に

み国の栄え
心から

神にお願ひ
かけました

空もしづかに
ほのぼのと

すがすがしくも
明けていく


お友達から
年賀状

字まで正しく
丁寧に

明けて新年
お目出たう

大きく書いて
その次に

優等生に
なるやうに

僕も今年は
去年より

勉強しますと
書いてある


田舎の正月ア
長閑のどかだナ

豊年祭りも
もうすんだ

畑の仕事も
皆了へた

田甫たんぼの仕事も
皆了へた

どの家も俵は
積んである

村中 にこにこ
むつましい

山でも 森でも
ほほえんだ

軒端にや朝から
日が当り

鶏 雄鶏
遊んでる

うまやの馬まで
気楽だナ


正月二日ノ
ハツユメニ

   エンヤラヤ
   ギツチラコ

イソイデ コイコイ
タカラブネ
   ギツチラコ
   エンヤラヤ

タカラヲ ヤマホド
ツンデ コイ
   エンヤラヤ
   ギツチラコ

イソイデ コイコイ
タカラブネ


お正月は
目出たいな

万歳まんざいさんは
目出たいな

つづみを叩いて
ポンポン ポン

ともの才蔵も
目出たいな

ニコニコ ニツコリ
目出たいな

頭巾をかぶつて
笑ひ顔

鼓を叩いて
ポンポン ポン


風吹け 風吹け
早く吹け

海から山から
青空に

凧あげするから
風よ吹け

羽根つきするから
風吹くな

お庭にお屋根に
青空に

羽根つきするから
風吹くな


福ハ オウチニ
鬼ハ ソト

豆マキ パラパラ
パァラ パラ

鬼ハ ビックリ
大サワギ

豆ニハ カナハン
タイヘン ダ

福ハ オウチデ
ニツコ ニコ

ソレ マケ ソレ マケ
モツト マケ

豆マキ パラパラ
パァラ パラ

鬼ハ アワテテ
エツサツサ


初午だ
   初午だ

ドドンカドン
   ドドンカドン

お稲荷さまの
   お祭りだ

ドドンカドン
   ドドンカドン

みんな来い来い
   早く来い

狐のお面が
   はじまつた


いつでも やさしい
お雛さま

今年も来ました
おそろひで

お口も きかずに
おとなしく

きちんと ならんで
お上品

去年は 白酒しろざけ
あげました

今年も 白酒
あげましよか

緋桃ひももも 綺麗に
咲いてます

お遊び下さい
お雛さま


ミンナ コイコイ
ハヤク コイ

ハルハ タノシク
ゲンキヨク

ウサギ アソビヲ
イタシマセウ

オニハデ ピヨン ピヨン
ハネナガラ

グルグル マハツテ
オモシロク

ピヨンピヨン ハネハネ
アソビマセウ


ボウシモ オクツモ
アタラシク

イヨイヨ ケフカラ
一年生

マイアサ ガツカウヘ
マヰリマス

オウチヘ カヘレバ
タダイマト

ガツカウノ オハナシ
イタシマス


おはやう おはやう
今日こんにち

お靴も ひとりで
はきました

歩けば キツキと
鳴りました

みなさん おはやう
今日は

唱歌も 元気に
歌ひます

楽しい 遊びも
いたしませう


ツンツン ツクツク
ツクシンボ

ツンツン 土筆ツクシ
原ツパニ

ツクツク並ンデ
立ツテマス

帽子モ揃ヒノ
帽子 デス

袴モ揃ヒノ
袴デス

ツクツク ツンツン
ツクシンボ

コツチヲ向イタラ
向イタキリ

アツチヲ向イタラ
向イタキリ

ツンツン並ンデ
原ツパニ

ツンツン ツクツク
立ツテマス


畑の中から
春が呼ぶ

春は菜種の
花を呼ぶ

菜種も呼ばれて
花が咲き

野原の中から
春が呼ぶ

春は菫の
花を呼ぶ

菫も呼ばれて
花が咲く


ハダシデ ピチヤ ピチヤ
シホヒガリ

ハマグリ アサリハ
スナノ ナカ

コガニハ チヨロ チヨロ
ニゲマハル

チヨロ チヨロ コガニガ
ニゲルノヲ

ハマグリ アサリヲ
フミナガラ

ハダシデ ピチヤ ピチヤ
オヒアルク


友と連れ立ち
汐干狩

汐干の渚や
遠浅に

拾ふ小さな
貝の数

月の数ほど
打つ波に

汐干の渚も
汐は満ち

いつかあたりは
海となる


チンチン電車
チン電車

チンチン鳴らして
とまります

チンチン電車
チン電車

チンチン電車
ならびます

あれあれ電車
あの電車

電車と電車が
つづきます


みんな 出て来い
日の丸持つて

春が 来た来た
愉快だナ

ひろい野原に
大空に

吹く春風は
愉快だナ

手には 日の丸
ひらひら 国旗

春が 来た来た
愉快だナ

靴もる軽る
帽子に旗に

吹く春風は
愉快だナ


田甫たんぼの 田の中
春になり

泥田に 寝てゐた
田螺たにしさへ

朝から 出て来て
遊んでる

   氷が張るから
   寒いから

   田螺は冬より
   春が好き

田甫の 田の中
春になり

蛙も
目を覚まし

朝から 元気で
遊んでる

   蛙もどじよう
   春が好き

   田螺と一緒に
   出てあるく


森の 森の
真ン中

背高せいたかのつぽの
杉の木に

春に なると
鳥が

チンカラ チンと
とまる

何んと啼いた
鳥だ

青空 見てゐて
啼く鳥だ

杉に ちやんと
とまり

チンカラ チンと
啼いた


空は奇麗に
晴れてゐる

毎日 毎日
よい天気

遠くの山も
よく見えた

山の上まで
雪が解け

小藪でさへづ
鶯に

うれしい うれしい
春が来た


とまれよ とまれ
蝶々よ とまれ

畑の 中の
菜の葉の 上に

蝶々の すきな
菜の花 咲いた

咲いたよ 咲いた
きれいな 花が

菜の葉の 上に
ヒラヒラ ヒラと

蝶々よ とまれ
菜の花 咲いた


山にも 里にも
春が来た

小鳥の お母さん
春が好き

ツーピー ツーピー
ツーピツピツ

小鳥のお母さん
花も好き

花では 桜の
花が好き

ツーピー ツーピー
ツーピツピツ

山にも 桜の
花が咲き

里でも 桜の
花が咲く

ツーピー ツーピー
ツーピツピツ


学校の前は
畑です
畑の菜の花
咲くころに

わたしは入学
したのです
それから今日は
一年目

今年も菜の花
咲きました
わたしは二年に
なりました

畑に菜の花
咲くたびに
毎年 進級
いたします


咲いて 見事に
ひらひらと

散るも勇まし
桜花

桜の花は
いさざよき

わが日本の
ほこりなり

頃も弥生の
春に咲き

富士の高嶺も
うららかに

人の心も
のびのびと

勇まし ゆかし
限りなく

花の吹雪と
やがて散る

国のほこりの
桜花


田甫たんぼの 田螺たにし
泥だらけ

お顔が どこだか
わからない

お目々も どこだか
わからない

お顔も お目々も
泥だらけ

たんたん 田螺は
田の中に

朝から 晩まで
泥遊び

あつちへ 転げて
どつこいしよ

こつちへ 転げて
どつこいしよ


ひよこのお家は
よいお家
朝からぽかぽか
日があたる

コツココツコと
親鶏が
ひよこを呼び呼び
遊びます

ひよこはピヨピヨ
親鶏の
背中へあがつて
遊んだり

羽根の蔭から
間から
首を出したり
隠したり

ひよこは毎日
親鶏と
元気に楽しく
遊びます


雲雀ひばりと蛙の
鳴きくらだ

雲雀が負けたら
お空から

ピーチク チクチク
逃げて来る

蛙も負けたら
田甫たんぼから

ゲコゲコ ゲツコと
逃げて来る

どつちも負けずに
うんと鳴け

雲雀はどうやら
負けさうだ

蛙もどうやら
負けさうだ

どつちも鳴きくら
くたびれる


ドンドン バシノ
シタニハ

メダカガ オヨイデ
アソンデ ヰル

ドンドンバシヲ
トホルト

メダカガ ミンナデ
ニゲテ イツタ

ドンドン バシヲ
ワタルト

ドンドンドント
ナルカラ

メダカガ
タマゲルノダ


遠くの遠くの
竹山に
露から生れた
お姫さま
姿もやさしく
きりようよし

つづれの錦の
帯をしめ
着物は振り袖
一重褄ひとえづま
模様は桜の
花ちらし

小笹のお舟に
帆をかけて
黄金のお鈴を
振りながら
ねんねする子を
たづねます

お舟に積んでる
お土産は
金銀珊瑚さんご
よいおもちや
この子のお好きな
ものばかり


柳の下から
燕が水汲む

柳の下には
小川が流れる

小川の中から
すいすい汲みます

くちで汲むから
はねがぬれます

燕のお家は
軒端の蔭です

軒端の蔭から
すいすい出て来る

柳の下から
飛び飛び汲みます

お嘴で汲むから
お翼がぬれます


今朝から田植が
はじまつた

一枚植ゑれば
またつぎへ

つぎからつぎへと
植ゑてゆく

ひろい田甫たんぼ
すみまでも

日のくれごろには
残りなく

みんな青田に
なつてゆく


お池は蛙の
幼稚園

毎日泳ぎの
稽古です

バッチヤ バッチヤ
ザンブ ザンブ
シユシユ シユ

一番上手に
ずんずんと

泳ぐは蛙の
先生です

バッチヤ バッチヤ
ザンブ ザンブ
シユシユ シユ

泳ぎの出来ない
子蛙に

泳ぎを教へて
ゐるのです

バッチヤ バッチヤ
ザンブ ザンブ
シユシユ シユ


燕のおうち
泥の家

田甫たんぼの泥土
はこんだり

お堀の泥土
はこんだり

お口で壁ぬり
いたします

忙がし 忙がし
ピイチク チー

お口も よごれて
泥だらけ

お花が咲いても
いきません

せつせと お家を
つくります


大きい 目高は
隊長さん

ツンツク ツクツク
ツンツンツン

小さい 目高は
兵隊さん

負けずに ツクツク
ツンツンツン

どんなに この川
深かろが

どんなに 流れが
早かろが

目高だ 目高だ
行列だ

ツンツン ツクツク
ツンツンツン


ほたるは たんぼで
ひかります

ほたるの ひかりは
ぴつかりこ

ぴつかり ぴつかり
ぴつかりこ

ほたるは とんで
すういすうい にげる

たんぼの たのなか
すういすうい


銀鮒 金鮒
沼の鮒
沼の鮒釣り
面白い

釣竿かついで
友達と
田甫たんぼの釣道
エッサッサ

大鮒 小鮒が
寄つて来る
沼の縁でも
よく釣れる

今日もにこにこ
元気よく
沼の鮒釣り
エッサッサ


螢 来い 来い
ここへ 来い

田甫たんぼは 泥田で
いかれない

泥田の田甫は
飛んで 来い

螢 来い 来い
ここへ 来い

川が 深くて
いかれない

川が深くば
飛んで 来い


どんと波来い
沖から来い

遠くの沖から
つづいて来い

大波 小波で
仲よく来い

来い来い来い
どんと波来い

どんと波どん
どんどんどん

道草しないで
急いで来い

仲よくをか見て
どんどと来い

来い来い来い
どんと波来い


タカイ トホクノ
オヤマニハ

オハナ バタケガ
アルノ デス

オハナ バタケニ
サクハナハ

ナツヲ マツテテ
サキマシタ

アカヤ キイロヤ
モモイロヤ

シロヤ シボリヤ
ムラサキヤ

ミンナ ミゴトナ
ハナ デシタ


お風呂が 沸いた
もう沸いた

おもちやの 金魚が
浮いてゐる

一匹 二匹
三 四 匹

金魚と一緒に
はいりませう

おもちやの 金魚は
面白い

沈めてやつても
浮きあがり

泳げといつても
泳がない

お風呂に 並んで
遊んでる


空で ピカピカ
お星さん
あれあれ お目々が
光ります

空の 上から
遠くまで
毎晩 寝ないで
見てゐます

小さい お星は
ねむいから
お目々が ぽちぽち
するのです

それでも やつぱり
ねむらずに
お目々を こすつて
起きてます


夏はお庭で
父さんと

お池こさえて
遊びませう

お庭掘つたら
真つ先きに

裏の井戸から
父さんと

水をバケツで
運びませう

ざんぶざんぶと
涼しそに

水がお池に
たまつたら

金魚いかして
眺めませう


海は 青くて
きれいです

海を 眺めて
をりますと

夏でも 凉しく
なるのです

海は 広くて
愉快です

波と 波とが
どんどん と

まけずに 駈けくら
いたします


ささの はつぱの
ささぶねは

川を ながれて
いきました

川は うみまで
つづきます

なみも うみには
うつてます

ろもない ほもない
ささぶねは

どこまで ながれて
いくのでせう


註 *満洲国の河。外蒙古と内蒙古の国境が北へ向かつて興安嶺につき当つた辺から東へ流れ出してゐます。下流は有名な松花江であります。

※(「さんずい+兆」、第3水準1-86-67)児河ドルガ*の亀の子
スツポン ポン

すつぽん亀の子
ピツチヤ ピチヤ

ピチヤ ピチヤ 首出せ
スツポン ポン

すつぽん亀の子
泥だらけ

泥から 匍ひ出す
スツポン ポン

※(「さんずい+兆」、第3水準1-86-67)児河の泥水
ピツチヤ ピチヤ


夕立 駈あし 早いあし
出て来た 出て来た 入道雲

たちまち お空に ひろがつて
見る間に 降り出す 強い雨

鳴り出す 鳴り出す 光り出す
ピカピカ ゴロゴロ 稲光り

忽ち お空を 駈けぬけて
早いぞ 早いぞ 入道雲


空のお星が
落ちて来て

蛍の 光に
なつたとサ

蛍の 光は
すいすいと

夜露を たづねて
飛んでます

夜露も 空の
お星から

草の葉 木の葉に
降るのです

螢も お星を
忘れずに

夜露を たづねて
飛んでます


毎年マイネン 七月
七日ニハ

タンタン七夕
星祭リ

タンタン七夕
来タナラバ

タンタン短冊
歌カイテ

短冊 ツルシタ
竹タテテ

タンタン 七夕
祭リマセウ


ハジマル ハジマル
カミシバヰ

アワテタ ネズミノ
オシバヰ ダ

チヤンキ チヤンキ
チヤン チヤン

コネコニ オハレタ
オヤネズミ

タマゲテ アワテタ
オシバヰ ダ

チヤンキ チヤンキ
チヤン チヤン


チロリン チロリン
チンチロ リン

チロチロ チロリン
松虫や

ハイ ハイ 御用は
なんですか

野原に ゐたとき
どうしてた

チロリン チロリン
なきながら

朝露 夜露を
吸ひました


セイタカ
コスモス
セイクラベ

オテテヲ
アゲテモ
トドカナイ

タカイナ
タカイナ
カテナイナ

ワタシノ
セイデハ
カナハナイ


兎はお山で
遊びます

お月さんお空で
見てゐます

兎とお月さんは
昔から

誰でも知つてる
お仲よし


虫の音楽 にぎやかで
誰が聞いても 面白い

チロリン チロリン
チロリン チロリン
チンチロ リン リン リン

日暮れごろから 目をさまし
草や小藪の 上に来て

チロリン チロリン
チロリン チロリン
チンチロ リン リン リン

夜は友達 集つて
細いすずしい 声をして

チロリン チロリン
チロリン チロリン
チンチロ リン リン リン


どちらへ つばめは
   いきました

お国へ かへつて
   いきました

つばめの お国は
   どちらです

お国は 南の
   遠くです

海こえ 海こえ
   海こえて

遠くの 遠くの
   お国です


お餅も つかずに
どうした ことやら

エンヤラ ヤツサと
兎の 綱引き

お耳を 振り 振り
どつこい どつこい

すべつて ころげる
負けては ならない

さうとも さうとも
ひつぱれ ひつぱれ

加勢が 来るまで
勝負が つかなきや

月夜に なつても
その綱 放すな

よいとも よいとも
放せば 負けるぞ


豚のお鼻は
ぶうぶうお鼻

小さい時から
お鼻が鳴つた

歩きながらも
ぶうぶう鳴らす

豚のお鼻は
喇叭ラツパのお鼻

お鼻が喇叭で
お鼻が鳴つた

目さへ覚めれば
お鼻を鳴らす

豚のお鼻は
喇叭のお鼻


月夜の 竹やぶ
たん たん 竹やぶ

夜通し
ピカピカ

竹の葉つぱに
何ぢやらう

夜通し ピカピカ
何ぢやらう

星が寝ぼけて
来たのやら

星ぢや ないない
星ぢやない

月夜に生まれた
露の玉

夜通し ピカピカ
まんまるく

竹の葉つぱで
ねんねする


ゴムのまり
ポンポコ ポン

狸の太鼓は
腹太鼓

太鼓で毬を
ついたなら

ポンポコ ポンノ ポンポコ ポン

狸も毬も
ポンポコ ポン

軽い瓢箪へうたん
ポンポコ ポン

狸の尻尾は
重いから

尻尾で狸が
たたいたら

ポンポコ ポンノ ポンポコ ポン

瓢箪ころげて
ポンポコ ポン


月夜に烏が
眼をさまし

夜明になつたと
飛び出した

ねぼけて月夜を
忘れてる

あわてた烏は
おかしいな カア カア カア

夜明に烏が
眼をさまし

日暮になつたと
啼き出した

夜明と日暮と
間違へた

あわてた烏は
をかしいな カア カア カア


まるい お月さん
十五夜さん

まんまる お顔で
にこにこと

空の 上から
ハイ 今晩は

誰と お月さん
お友達

ぺつたん ぺつたん
お餅つく

ぴよんぴよん うさぎと
ハイ お友達


鳴子の 綱引け
ガランガラン ガラン

田甫たんぼの 小鳥は
キョロォキョロォ キョロォ

引け引け やれ引け
ガランガラン ガラン

小鳥が そろつて
キョロォキョロォ キョロォ

鳴子だ 鳴子だ
ガランガラン ガラン

飛びませう 逃げませう
キョロォキョロォ キョロォ

逃げぬか 逃げぬか
ガランガラン ガラン

なかなか 飛ばない
キョロォキョロォ キョロォ


弓矢を握つて
立つてゐる

案山子かかし田甫たんぼ
番兵です

敵の小鳥は
遠くから

案山子を見付けて
逃げていく

簑笠みのかさ仕度で
元気よく

来たら射るぞと
身構へた

番兵の案山子は
勇ましい


かやの木山へ
やまがらが

かやの実 とりに
来てゐます

枝から 枝へ
とびうつり

声も 高々
なきながら

かやの木山の
かやの木に

かやの実 とりに
来てゐます


アサオキ スズメガ
オ日サマニ

チン チン ソロツテ
オヤネカラ

オ日サマ オハヨト
イヒマシタ

アサオキ スズメニ
オ日サマモ

ソラニ オカホヲ
ダシナガラ

オハヨウ オハヨト
イヒマシタ


ミンナ ナランデ
ダイコンアラヒ

ニイサンモ
ハダシデ

ゴシゴシ ヂヤンプ ヂヤンプ
ゴシゴシ ヂヤンプ ヂヤンプ

タレモ タスキヲ
キリリト カケテ

ネエサンモ
ハダシデ

ゴシゴシ ヂヤンプ ヂヤンプ
ゴシゴシ ヂヤンプ ヂヤンプ


山茶花サザンカノ 花ハ
山茶花ノ 枝ニ
イクツモ 咲イタ

山茶花ノ 下デ
山茶花ノ 花ヲ
見ナガラ 遊ボ

山茶花ノ 咲イタ
山茶花ノ 枝ヘ
雀モ オイデ


落葉おちばの 学校の
生徒さん

風の 吹くたび
一二の三

エンサカ ホイサと
飛びまはる

飛ぶのが 上手な
生徒さん

みんな そろつて
一二の三

まけずに ひらひら
飛びまはる


テテポポ ポツポ と
やまばと が

やまで ラツパ を
ふきました

テテポポ テテポポ
ポツポツ ポツ

テテポポ ポツポ と
やまばとが

やまで ふくのが
じようず です

テテポポ テテポポ
ポツポツ ポツ


小鳥は丘や
森がすき

丘で遊んで
森で寝る

籠の中には
丘はない

籠の中には
森はない

逃げた小鳥は
空高く

小さいはね
つづくだけ

丘の向かふへ
飛んでいく

森の向かふへ
飛んでいく


朝起き 早起き
豆腐屋さん

お豆腐かついで
ラツパ吹く

トーテトーテ トテトの
トテ トテト

雨が降つても
休まない

風が吹いても
休まない

トーテトーテ トテトの
トテ トテト

街から街へ
吹いていく

優しいラツパ手
豆腐屋さん


みんな ぱかぱか
お馬に乗つて
いつも 騎兵は
勇ましい

みんな お馬も
鉄靴はいて
とつと とつとと
かけてゆく

みんな一緒に
いくさの時は
いつも 真先
いさましい


山で カラカラ カラカラ
おしやべり 四十雀

黒い 黒い 黒いソフトの
黒い 小帽子

白い 白い 白いエプロン
白い チヨツキ

ピーピー カラカラ カラカラ
ピー カラカラ ピー

森で カラカラ カラ
枝から 枝渡り

小さい 小さい 小さいロイドの
小さい 目鏡めがね

青い 青い 青い上衣に
青い マント

ピーピー カラカラ カラカラ
ピ カラカラ ピー


輪廻し くるくる
面白い

急いで廻せば
早くなる

のろのろ廻せば
おそくなる

とまれば廻らず
直ぐころぶ

転ばず廻れと
かけだすと

くるくる くるくる
よく廻る


皆さん 皆さん
お友だち

みんなで 仲よく
遊びませう

はねくら なはとび
ランニング

まけても 泣いては
いけません

かつても 自慢は
いけません

かちくら ごつこで
遊びませう


雀の朝起き
早いこと

お日さまお顔を
出さぬうち

お目々をさまして
下さいと

坊ちやん 嬢ちやん
呼びながら

軒端で ちんちん
啼いてます


雪の野原の
遠くから

ちんから ちんから
鈴が鳴る

馬に曳かせて
元気よく

鈴を振り振り
そりが来る

鈴の鳴るのを
少女子が

留守居しながら
聞いてゐる


村のかぢやは
早くから
トツテン トツテン
トツテン カン

大鎚おほつち小鎚の
鎚の音

つくるすき くわ
鎌 唐鍬
トツテン トツテン
トツテン カン

朝から晩まで
いそがしい


スキーは 愉快で
面白い

つるつる 滑つて
走つてる

下手では スキーは
走らない

すつてん ころりん
よく転ぶ

上手の スキーは
ずんずんと

するする するする
面白く

原でも坂でも
走つてる
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童謡について一言


 この童謡集「朝おき雀」は、私が年来主張して来た所謂米英文化に影響されず、郷土即ち本来の日本国民性を護るために聊かなりとも児童の情操教育を培ふ基となれば幸ひであります。それについて童謡の立場から二三挙げて申し述べて見ませう。
 一体童謡は、児童の歌でありますから、児童に判りにくいむつかしい文字やむつかしい意味を避けて、誰にも判るやうに書かなくてはならないのです。それは自然の心から生れて来る童心を中心として書くなり作るなりしなくてはなりません。そこでこの童心を除外したり、無視しては童謡は出来ないのです、その上童謡には異性間の愛着があつてはなりません。異性間の愛着のあるのは民謡ですから、童謡は純真無垢と言はるるのもこの点からであります。また教育の上から注意すべきことであります。
 童謡には往々、犬と話をしたり、馬と話をしたり対人的の取りあつかひをします。何故かと言ふと犬も馬も万物あらゆるものは人間と同じに見るからであります。まことに子供らしいのが童謡でありますから、世にいふ普通の文学とは変つてをります。ここに童謡の童謡たる所以があるのであります。
 さて、この童謡について言ふならば、「赤子は大人の如し」と昔の聖人が言つてゐますがここに言ふ赤子とは赤ン坊の意味でなく純真の心の持主の意味であります。又大人と言つたのも単におとなの意味でなく人々の手本となるべき人の意味であります。今でも目上の人に対して何々尊大人とか書くのと尊敬して書くのと同じ意味であります。要するに「赤子は大人の如し」と言つたのは子供の心には人々の手本となるべき尊い心があると言ふ意味になるのであります。その外にも昔の聖人と言はるる人は言葉が違つてゐても同じ純真さを説いてをります。昔から子供の心は誰でも純真であることがうなづかれます。
 童謡を作るには仮へば水の低きに流るるやうなもので、すらすらと書かれるのが本当です。考へ考へ書かれたのは、すらすらとなりません。児童の教育に差支へのない限りはこの点に指導者は注意を要すべきことであります。
 童話と童謡とは同じ童心から生まれるのでありますが、童話はお話であつて、童謡は歌でありますから、お話と歌の違ひがありますが、どちらも児童のものであります。歌であるだけ童謡は言葉の調子旋律に重きをおきます。どんなことでも童謡になると思ふのは、違ひます。童謡になるものと、ならないものとあります。童謡にならないものを童謡にしようと思ふと苦心を要します。苦心をした上によくは書けないのであります。この点も指導者はよく考へる必要があると思はれます。
 輝き渡る日本の国です。国民性の純真無垢の児童の心を培ふことが、将来のためにも、又、郷土色を多少でも養ふことがわれわれの努めであります。

  昭和十七年五月一日
野口雨情

底本:「定本 野口雨情 第三巻」未来社
   1986(昭和61)年3月25日第1版第1刷発行
底本の親本:「朝おき雀」鶴書房
   1943(昭和18)年2月28日刊
初出:年賀状「幼年倶楽部」
   1938(昭和13)年1月
   万歳さん「幼年倶楽部」
   1934(昭和9)年1月
   豆マキ「幼年倶楽部」
   1935(昭和10)年2月
   お離さま「コドモアサヒ」
   1933(昭和8)年3月
   森で啼く鳥「コドモノクニ」
   1934(昭和9)年4月
   桜と小鳥(原題 小鳥のお母さん)「幼年倶楽部」
   1935(昭和10)年4月
   田螺の泥遊び「幼年倶楽部」
   1934(昭和9)年8月
   ひよこ「幼年倶楽部」
   1938(昭和13)年3月
   雲雀と蛙「婦人子供報知」
   1931(昭和6)年6月
   燕の泥塗り「幼年倶楽部」
   1935(昭和10)年5月
   目高「幼年倶楽部」
   1933(昭和8)年4月
   沼の鮒釣り「幼年倶楽部」
   1937(昭和12)年6月
   螢狩り「幼年倶楽部」
   1935(昭和10)年6月
   どんと波「コドモノクニ」
   1932(昭和7)年9月
   オハナバタケ「ツバメノオウチ」
   1932(昭和7)年8月
   お風呂「幼年倶楽部」
   1938(昭和13)年8月
   お池つくり「幼年倶楽部」
   1937(昭和12)年8月
   すつぽん亀の子「幼年倶楽部」
   1934(昭和9)年12月
   七夕(原題 タナバタマツリ)「セウガク二年生」
   1933(昭和8)年7月
   兎の綱引き「しやぼん玉」
   1932(昭和7)年10月
   豚のお鼻「幼年倶楽部」
   1937(昭和12)年3月
   月夜の竹やぶ「童謡」
   1933(昭和8)年3月
   あわてた烏「コドモノクニ」
   1933(昭和8)年11月
   鳴子「幼年倶楽部」
   1932(昭和7)年11月
   豆腐屋さんのラツパ(原題 とうふやさん)「幼年倶楽部」
   1932(昭和7)年10月
   おしやべり四十雀「童謡と童話」
   1933(昭和8)年5月
入力:川山隆
校正:noriko saito
※「*」は注釈記号です。底本では、「児河」にかかるルビ「ドルガ」の上に、ルビのように付いています。
2010年4月18日作成
2010年11月5日修正
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