著者より


 童謡は、童心から生れる言葉の音楽であります。童心から生れる言葉の音楽が、芸術的価値があつたならば、童謡と言ふことが出来ます。
 又、童謡は、童心から発した自然詩であると言ふことも出来ます。童心から発した自然詩は、純真不※(「石+隣のつくり」、第3水準1-89-14)の芸術であります。純真不※(「石+隣のつくり」、第3水準1-89-14)の芸術が歌謡であつたとき童謡となるのであります。
 童謡は、童心より生発する言葉の音楽であり、自然詩でありますから、表現は単純化されてをります。単純化とは、複雑の究極であつて、作品の芸術価値(殊に童謡に)は、単純化か否かによつてわかるることが多いのであります。
 初学のうちは、言はんとする内容の説明に急であつて、ややもすれば平面的描写に陥りやすいですが、かうしたことは、その作者に芸術眼さへあれば、練習によつて自覚的にすくはるる日が来るのであります。
 単純化された表現の作品をみて、幼稚なもの、つまらないものと思ふのは、童心の欠けた人に多いのであります。カントの言はれた永遠の児童性とは、既成知識を超越した無垢の世界であつて、幼稚と思はれ、つまらないと思はれるものの中に童謡のやどりもあるのであります。
 自然に直面し、自然と握手することの出来る心は、永遠の児童性であり、童心であります。童謡は童心より生発する芸術でありますから、意識的に作られることは、童謡の本質ではありません。
 童謡は、飽まで歌謡のすがたを備へた童心芸術であります。
 かう考へてみたとき、本書の作品があまりに不用意であることを思ふのであります。しかし本書は、小著『青い眼の人形』以後の作品を一巻としたのであるから、自分としては、不用意の作品であつても、習作上の道程として、他日の参考にもと思つてをります。
(東京郊外武蔵野村童心居にてしるす)
[#改ページ]

よいよい横町で
   見た月は 見た月は

半分かけてた
   朝の月 アノ朝の月

お空にぼんやり
   出た月は 出た月は

夢みて寝ぼけた
   昼の月 アノ昼の月

兎がお餅を
   搗く月は 搗く月は

十五夜お月で
   丸い月 アノ丸い月


雨降りお月さん
雲の蔭

お嫁にゆくときや
誰とゆく

ひとりでからかさ
さしてゆく

傘ないときや
誰とゆく

シヤラ シヤラ シヤン シヤン
鈴つけた

お馬にゆられて
濡れてゆく

いそがにやお馬よ
が明ける

手綱の下から
ちよいと見たりや

お袖でお顔を
隠してる

お袖は濡れても
干しや乾く

雨降りお月さん
雲の蔭

お馬にゆられて
ぬれてゆく


ホーや ホケキヨや 鶯や
鶯さんなら 梅に来な

夜はお空の お星さんも
梅の小枝で チラ チラリ

チラ チーラリ チラ チラリ
鶯さんなら 梅に来な

夜はお空の お星さんも
梅の小枝に 来てとまる


俵は ごろごろ
  お蔵にどつさりこ

お米はざつくりこで
  チユチユ鼠はにつこりこ

お星さまぴつかりこ
  夜のお空でぴつかりこ


田甫たんぼの鳥追ひ
   ホーイ ホイ

雀に追はれて
   チッチッチ

あつちの田甫へ
   チッチッチ

こつちの田甫へ
   チッチッチ

あつちの田甫も
   ホーイ ホイ

こつちの田甫も
   ホーイ ホイ

ホーイ ホイホイ
   ホーイ ホイ

雀に追はれて
   チッチッチ


山から来い
   兎が来い

月夜になるから
   山道来い

いそいで来い
   里見て来い

お山の兎が
   みんなで来い

遊びに来い
   はねはね来い

お餅をくから
   お庭へ来い


狐の提灯 ポウ

ポウポウ狐の
提灯行列 ポウ

をかは万作だ
天からお金が降つて来る

浜は大漁だ
海からお金が湧いて来る

狐の提灯ポウ

ポウポウ狐の
提灯行列 ポウ


橋が流れた
  ヨイヨイヨイサ

一本橋おかけ
  仮橋おかけ

一本橋かけた
  仮橋かけた

一本橋アゆれる
  ヨイヨイヨイサ

一本橋渡れ
  仮橋渡れ

早く渡らにや
  また橋ア流る


サート サラサラ
 サート サラサラ

雪雪 こんこん
   降つて来な

泣く子はおうち
   ひつこみな

サート サラサラ
 サート サラサラ

山から粉雪
   降つて来な

泣く子のおめめ
   飛んでゆきな


木の葉の駈けくら
    エッサッサ

とんだり
  はねたり

ころころ駈け出す
    エッサッサ

エッサ エッサ
    エッサッサ

木の葉の
   駈けくら

風の吹く中
    エッサッサ


お屋根にお日さま
ぽつかりこ

干草ながめて
ヒーンとないた

お馬は
お出かけだ

お庭にお日さま
ぽつかりこ

干草ながめて
ヒーンとないた

仔馬も
お出かけだ

お日さまかんかん
お日さまかんかん

うまやはおるすで
ひつそりこ


お供はあと
お供は後よ

お供は後から
ついて来る

 エッサエッサエッササ
 エッサエッサエッササ

お荷物かづいて
ついて来る

お荷物何よ
お荷物何よ

お客にお土産
持つて来る

 エッサエッサエッササ
 エッサエッサエッササ

お供がお土産
かづいてる


烏が種蒔く
   雀が見てゐる

雀が種蒔く
   烏が見てゐる

烏は雀の
   番してる

雀は烏の
   番してる

雀も困つた
   烏も困つた

雀も烏も
   困つちやつた


枯れ木にとまつて
   とんびがお昼寝

落ちたらあぶない
   ピーヒヨロ ロー
枯れ木でお昼寝
   鳶が夢見た

飛ばぬとあぶない
   ピーヒヨロ ロー


甘茶が わいた
茶がわいた

お寺の茶釜に
いつぱい わいた

柄杓ひしやくで汲まなきや
汲まれない

柄杓で汲んだりや
ちよいと汲めた

釈迦しやかさんにちよいと汲んで
ちよいとあげた


たんたん
  竹藪

走れよ
  虎よ

千里走つて
  また千里帰れ

たんたん
  竹藪

張り子の
  虎よ

千里走つて
  また千里帰れ


お猿がお山にゐたころは
木の実を拾つて
食べてゐた

木の実を拾つて食べてても
お顔はやつぱり
赤かつた

お顔の赤いは生れつき
怒つてゐるンで
ないんだよ


寒い声出した
霜夜の狐
  コンコン
    コン

その声ア寒い
も一度出せよ
  コンコン
    コン

永い夜は寒いナ
寒い夜は永いナ
  コンコン
    コン


雀の使ひが
    まゐりました

雀の使ひが
    まゐりました

どこから使ひが
    まゐりました

雀の宿から
    まゐりました

雀の宿から
    まゐりました

お土産届けに
    まゐりました


ちらりと
粉雪
 降つて来た

風呂場で
風呂汲め
 風呂わかせ

ちらりと
粉雪
 降つて来た

柄杓ひしやく
柄がない
 底がない

底なし
手桶に
 水がない

河原に
かはせみ
 啼いて来る


山でカツコカツコ
    カツコ鳥啼いた

山でカツコカツコ
    あの啼く声は

『雨の降る
  日にや
   雨傘ほしや』

『暗い
  闇夜にや
   提灯ほしや』

山でカツコカツコ
   カツコ鳥啼いた

高い山から
   里みて啼いた


日暮れにや日暮れの
鐘が鳴る

高野こうやのお山は
紀伊の国

紀州は蜜柑の
よいところ

お一つ数へりや
日が暮れる

お二つ数へりや
夜が明ける

夜明けにや高野で
鐘が鳴る


島はひとりぽつち
ぽろりと一つ

 海ン中に ホイ

ぽろり一つぢや
友達ヤなかろ

 離れ島 ホイ

いつも離れ島
ぽろりと一つ

 ひとりぽつち ホイ

一つぽろりぢや
日が永いだろ

 はぐれ島 ホイ


みんなで来い みんなで来い
水鉄砲 しゆう
しゆう しゆう しゆう

水持つて来い 水持つて来い
水鉄砲 しゆう
しゆう しゆう しゆう

いそいで来い 遊びに来い
水鉄砲 しゆう
しゆう しゆう しゆう

跣足はだしで来い かけかけ来い
水鉄砲 しゆう
しゆう しゆう しゆう


一つよいよい
この子の
めめ

唄ではやせば
すやすや
ねむる

二つよいよい
この子の
てて

おもちや持たせりや
ひとりで
あそぶ

一ついやいや
この子の
お眼

見れば欲しがる
見せなきや
ねだる

二ついやいや
この子のお手

あきりやおもちやを
みんな投げる
みんな投げる


箱根のお山で
狐が啼いた

とんがり口して
コーンと啼いた

とんがり口して
コーンと啼いた

懸巣が真似して
コーンと啼いた

ほんとの狐と
狐が思つた

とんがり口して
ココンと啼いた


蟹さん御飯炊きや
忙がしね 忙がしね

お客が来るから
よくお炊き

上手に炊かなきや
火が消える 火が消える

消えたら御飯が
炊かれない

蟹さん御飯炊きや
上手だね 上手だね


桃太郎さんは
お供に 誰をつれてつた

雉子きじとお猿と
犬とつれてつた つれてつた

桃太郎さんの
お供は 何を持つてつた

雉子に 桃太郎さんは
槍をかつがせた

お猿に 桃太郎さんは
旗をかつがせた

犬は 桃太郎さんの
お馬になつてつた


鼠の嫁入り
紙の袋に
お米をいれてもつてつた

鼠の嫁さん
ちよろちよろ歩き

お耳にかんざし
ちよこらとさしてゐた

お耳のかんざし
めめはポチポチ

鼠の嫁さん
お髯が生えてゐた

鼠の嫁入り
お供の皆さん

お米のはいつた
紙の袋を
ひつぱりひつぱりもつてつた


かもめ飛んだ 飛んだ
かもめ が 飛んだ

一羽 おくれて
あとから 飛んだ

海は遠いし
渚は長し。

かもめ飛んだ 飛んだ
あとから 飛んだ

一羽 はぐれて
いそいで 飛んだ

海は遠いし
渚は長し。


見えた 見えた 見えた
あんよが見えた

お顔かくして
かくれんぼしてる

見えた 見えた 見えた
ててが見えた

めめかくして
かくれんぼしてる

見えた 見えた 見えた
お顔が見えた

お眼つぶつて
かくれんぼしてる。


尾上をのへの松に
鶴が来てとまりや
鶴が来てとまりや

松葉がパアラパラ

松葉の数は
一本一本かぞへりや
千年かかる

千年目にも
鶴が来てとまりや
鶴が来てとまりや

松葉がパアラパラ

松葉の数は
一本一本かぞへりや
万年かかる。


おいで おいで おいで
お客においで

わたしや このごろ
はたを織りました

 一つ日の出の
   鶴を織りました

 二つ芙蓉の
   花を織りました

 三つ三笠の
   月を織りました

 鶴は日の出に
   向いて啼きました

 花はりんりん
   りんと咲きました

 月は遙に
   冴えて照りました

おいで おいで おいで
お客に おいで

わたしや 美事に
機を織りました


いまここ鼠が
ちよつと通つた

鼠の小母をばさん
蝙蝠かうもりさん

いまここ鼠が
ちよつと通つた

鼠の小母さん
蝙蝠さん

御門ごもんの扉を
見やしやんせ

お月さんがちよつと出て
ちよつと射した

月夜になつたら
蝙蝠さん

鼠もちよつと呼んで
ちよつと遊ぼ


七つならんだ
    七つ星

七つならんで
    が更ける

夜ふけにやお星も
    みなねむる

眠ればしずか
    夜が更ける

眠れよ七つの
    七つ星

夜更けにやお星も
    みなねむる


カンカラカンカラカン
海坊主 出たぞ

小坊主の先きに
海坊主 出たぞ

カンカラカンカラカン
海坊主 小坊主

小坊主も 出たぞ
カンカラカンカラカン


山のすすきの穂
山から風吹きや ホウイ

 里の方へ ホウイ

山から里見て
わが山 忘れた ホウイ

里の芒の穂
里から山見た ホウイ

 山の方へ ホウイ

山から手招ぎや
わが里 忘れた ホウイ


お出し お月さん
影法師 お出し

 出そか 影法師
 踏まそか とんと

お出し 影法師
影法師 お出し

 出した 影法師
 踏んだか とんと

お出し お月さん
影法師 お出し

 お出し 影法師
 踏むから お出し


眠れ眠れ
首出した
亀の子

 亀の子が
 眠つた

眠れ眠れ
足出した
亀の子

 亀の子が
 眠つた

眠れ眠れ
眠つたか
亀の子

 亀の子が
 眠つた


雀のはた織り
雀の機織り

雀が機織る
雀の機織り

よく織る よく織る
 チン チン パタ パタ
 チン チン パタ パタ

お藪で機織る
雀の機織り

今日きり日がない
お嫁のお支度

忙がし 忙がし
 チン チン パタ パタ
 チン チン パタ パタ


宮城野の萩は
すすきの蔭に
ちよつぴり咲いた

お馬が通ると
薄の蔭で
お馬を見てる

急げよお馬
薄の蔭を
ちよつぴり急げ

宮城野の萩は
薄の蔭で
お馬を見てる


石山寺の秋の月
瀬田の唐橋からはしが渡る
たれも渡らぬわしや渡る

橋の上から下見れば
水にうつるはわが姿
月は姿にみとれてる

帰る矢橋やばせの船でさへ
風が吹かなきや
帰られぬ

帰らにやわが児に逢はれない
月は帰りを
急いでる。


こほろぎ コロコロ
夜長だな

夜長だ 夜長だ
帯くけた

その帯 どの子に
締させる

この子に この帯
締させる。


下駄に火がつく
かくれんぼ出て

出て来 かくれんぼ
鼻緒が燃える

下駄に火がつく
鬼さん留守だ

出て来 かくれんぼ
かくれんぼ出て来


雲雀ひばりの水汲み
お日さま高いぞ

さつさと
水汲め

水なし畑に
畑がなるまで

さつさと
水汲め

お日さま高いぞ
お日さま高いぞ

さつさと
水汲め

水なし畑に
畑がなるまで

さつさと
水汲め


梅の小枝で 梅の小枝で
鶯は
雪の降る夜の
夢をみた

野にも山にも
雪ばかり
サラ サーラと
雪ばかり

雪の降る夜に 雪の降る夜に
鶯は
梅の花咲く
夢をみた

野にも山にも
梅ばかり
チラ チーラと
梅ばかり


ここを通れば雀のお宿
ここのこの道近道ぢや

さアさ急いで通りなさい

雀のお宿にや雀はお留守
ここのこの道近道ぢや

さアさ急いで通りなさい

早く通らにや雀が帰る
ここのこの道近道ぢや

さアさ急いで通りなさい


とんぼ来い来い
釣瓶つるべにとまれ

井戸の釣瓶は
日が永い

草にとまるな
チツクリ虫ゐるぞ

今朝も泣く子の
足刺した


山は晴れたぞ
野に寝た 子鳩

帰れ 子鳩よ
もどれよ 山へ

はぐれ子鳩に
なるから 帰れ

野には 野狐
畑にやいたち

鼬ア啼いたぞ
戻れよ 子鳩

狐ア来るから
帰れよ 子鳩


つんつん 飛んでる
赤とんぼ
金魚屋の 金魚は
何してた

みんなで並んで
水呑んでた

つんつん 飛んでる
赤とんぼ
鳥屋とつとやの とつと
何してた

みんなで並んで
ねんねしてた


おもちやの手桶を
買つて来た

おもちやの手桶で
なに汲んだ

つかさんと一緒に
水汲んだ

おもちやの箒で
なに掃いた

お母さんと一緒に
庭掃いた
銀の鈴

 

兎 兎
銀の鈴
やろか

お耳に 銀の鈴
さげて
やろか

兎 兎
うれしがつて
はねた

銀の鈴 ほしくて
ぴよこんと
はねた


下髪さげ
  お結ひよ
可愛から

黒い油
  おつけよ
可愛から

赤い櫛
  おさしよ
可愛から

可愛から
  お客に
連れてゆこ


種から生えた
柿の木は
百年たつても
柿の木だ

種から生えた
柿の木は
千年たつても
柿の木だ

山から 烏が
飛んで来て
「赤い柿 うまい」と
食べちやつた

烏が 食べても
柿の木は
いつまで たつても
柿の木だ


山ほととぎすは
八千八はつせんやこゑ

一声目には
四千四声

二声目にも
四千四声

山ほととぎすは
八千八声

一声目には
まだ夜は明けぬ

二声目には
東が白む

山ほととぎすは
八千八声


ソソラ ソラ ソラ兎のダンス
タラッタ ラッタ ラッタ
ラッタ ラッタ ラッタ ラ

脚で蹴り蹴り
ピヨツコ ピヨツコ 踊る
耳に鉢巻 ラッタ ラッタ ラッタ ラ

ソソラ ソラ ソラ可愛いダンス
タラッタ ラッタ ラッタ
ラッタ ラッタ ラッタ ラ

とんで跳ね跳ね
ピヨツコ ピヨツコ 踊る
脚に赤靴 ラッタ ラッタ ラッタ ラ


虫の音楽 面白い
面白い

鈴虫アりんりん
鈴振つた

松虫 ガチヤガチヤ
きりぎりす

虫の音楽 にぎやか
賑だ

りんりんガチヤガチヤ
チンチロリン

きりきりガチヤガチヤ
チンチロリン


螢の飛行機
  山からホイ

早く山から
  急いで来い

飛行機ホイ
  山からホイ

ほウほウ螢の
  飛行機ホイ

早く山から
  急いで来い

飛行機ホイ
  山からホイ


流れ星ア
  流れて
   落ちて来る

離れ星ア
  はなれて
   光つてた

かくれ星ア
  かくれて
    まだ出ない

渡り星ア
  渡つて
   海に落ちた


夕やけ
小やけ

田甫たんぼ
案山子かかし

明日あした
天気

蓑笠
いらぬ

蓑ぬいで
ほせよ

笠とつて
ほせよ


夜になると
野の虫は

なんにも
かんがへない

電燈をたづねて
とんでくる

電燈をたづねて
とんでくる

野の虫さへも
暗いのはきらひ


ここのおうち
    お留守かい

ドンドン
    ドン

御門ごもんがしまつて
    をりますね

ドンドン
    ドン

お留守でお留守居
    ゐませんか


カホカホ啼くのは
明け烏

もうが明ける
夜が明ける

夜明けの海には星一つ
お山の上にも星一つ

夜明けのお星は
もう見えぬ

もう夜が明ける
夜が明ける

夜明けにや夜明けの明け烏
カホオホ啼くから夜があける


お空で光るは
あれは 何

あれは 闇夜の
お星さま

お背戸で光るは
あれは 何

一ツ目 小僧の
めめだよ

一ツ目 小僧の
目は 幾つ

一つ目 小僧は
一つだよ

二つ光るは
あれは 何

あれは お供の
お眼だよ


チロリン チロリン チンチロリン
チロリン チロリン チンチロリン

松虫は
お藪にとまつて鳴きました

 お藪の蔭は
   茨とすすき

 茨にやささ
   あんよが痛い

 薄にや切られ
   おててが痛い

チロリン チロリン チンチロリン
チロリン チロリン チンチロリン

松虫は
お藪にとまつて鳴きました


雀になれよ
  雀になれよ

木の葉がとんで
  雀になれよ

雀になつて
  お屋根で遊べ

雀の鳥は
  お屋根で遊ぶ

雀になれよ
  雀になれよ

お屋根にいつて
  雀になれよ


夢とりさん
夢とりさん

お星さんのお夢は
青い夢

青い夢
青い夢

お星さんは夢見て
落ちて来る

落ちて来る
落ちて来る

お星さんのお夢を
とつておくれ


羊 来い
来い

牧場まきば
遠い

小さい 羊は
くたびれる


帰れよ

牧場は
暮れる

かけて帰れよ
トットッと


日永だ日永だ
   たんころりん
田螺たにしはおうち
   しよひあるく
田螺のお家は
   泥だらけ
田甫たんぼで田螺は
   たんころりん
たんたんころりん
   たんころりん
田螺のお家は
   窓一つ
窓からのぞいて
   たんころりん


(鬼の大将)
向う来るのは
   何船ぢや

(赤鬼)
日本一につぽんいち』 の
   旗立てた

(青鬼)
桃太郎さんの
   乗るお船

(鬼の大将)
『日本一』ぢや
   そりや強い

(赤鬼)
ともも大勢
   ついて来た

(青鬼)
桃太郎さんにや
   かなはない

(鬼の大将)
ヤ・ヤ・ヤ・ヤ・
   それは大変ぢや

(赤鬼青鬼)
大変ぢや
   大変ぢや

(鬼の大将)
大変ぢや
   大変ぢや


とんびの笛吹き
ピーヨロロ
 ピーピ
   ピーヨロロ

ピーと吹いた
ピーヨロロ
 ピーピ
   ピーヨロロ

山から出て来て
ピーヨロロ
 ピーピ
   ピーヨロロ

ピーと吹いた
ピーヨロロ
 ピーピ
   ピーヨロロ


カチカチお山に
   誰がゐる

兎がこつそり
   かくれてる

ボオボオお山に
   誰がゐる

狸が一匹
   かくれてる

カチカチお山は
   大火事だ

ボオボオお山に
   火がついた

狸は熱くて
   逃げ出した

兎があとから
   追つかけた


河原ひわ ビーン
    朝から ビーン

ビン ビン
    ビーン

糸ひく ビーン
    より糸 ビーン

ビン ビン
    ビーン

お天気 見てゐちや
    糸ひく ビーン


霜夜は
寒いな
お星さんよ

お星さんよ
お星さんよ
霜夜は 寒い

野に寝る
 小鳥は
お星さんよ

お星さんよ
 お星さんよ
可哀さうだな


あの山越えて
   山越えて
あの山蔭へ
   水汲みに
 スタコラ スタコラ スタコラサ

一桶汲んでは
   草にかけ
二桶汲んでは
   草にかけ

一桶かければ
   葉が伸びる
二桶かければ
   花が咲く

あの山越えて
   山越えて
あの山蔭へ
   水汲みに
 スタコラ スタコラ スタコラサ


雀踊りは 面白や 面白や
手拍子そろへて 面白や

チンチンチンノチン
  ソリヤチンチンチンノチン

手拍子そろへて
  面白や

はぐれ雀も 来て踊れ 来て踊れ
手拍子そろへて 来て踊れ

チンチンチンノチン
  ソリヤチンチンチンノチン

手拍子そろへて
  来て踊れ

雀可愛や ようそろた ようそろた
手拍子そろへて ようそろた

チンチンチンノチン
  ソリヤチンチンチンノチン

手拍子そろへて
  ようそろた


夢のお国の
  お使ひ鳩が

お日が暮れれば
  おめめの上に

ちよいと飛んで来て
  ぱさりととまる

一羽いつぱとまれば
  また一羽とまる

かはるがはるに
  お使ひ鳩は

お日が暮れれば
  飛んで来てとまる


子供『象よ 象よ お鼻が
なぜ長い

象『お鼻で お乳を
飲んだから

子供『象よ 象よ おめめ
なぜさい

象『ちさいとき
居眠りしてたから


鳩さん 茶買ひに
行つたとサ

鳩さん お茶買ふて
なんにする

茶釜で沸して
飲むだとサ

ついでに茶柄杓ちやびしやく
買ふて来な

茶柄杓買ふのにや
金がない

鳩さん 茶柄杓
見てたとサ


お空のお月さま
ひとり旅

わが子をたづねて
あるいてる

山にゆきや
茨の蔭のぞき

磯にゆきや
小磯の蔭のぞく

千年 たづねても
子にや 逢へぬ

万年 たづねても
子にや 逢へぬ


エツサツサ
エツサツサ
ともは あと
お供は 後よ

お供は 後から
ついて来な
お供だ エツサツサ
お供だ エツサツサ

お供だ お供だ
お供だ エツサツサ

お荷物 エツサツサ
かついで エツサツサ

お供だ お供だ
エツサツサノサ


烏ア畑で
かやの実 ろた

たんこ たんこ たんこ
たんころたん と たたく

烏ア 榧の実
たんころたん と たたく

たたけ たんこ たんこ
たんころたん と たたけ

烏ア 榧の実
畑で拾ろた


ねむれよ ねむれ
  ねむの木よねむれ

夕闇ア来たぞ

ねむの木が
    ねむりや

雀もかへる

河原の藪へ
  雀よかへれ

夕星ア出たぞ

雀がかへりや
  ねむの木もねむる


お日がくれれば
  ほたるの燈台

ほたるの燈台
  小さい燈台

ぴかりぴかりと
  皆光る 皆光る

ぴかりぴかりと
  ほたるの燈台

ほたるの燈台
  かはゆい燈台

かはりがはりに
  皆光る 皆光る


鼠に 猫のひげを
  ちよいと お見せ

びつくりして
  キリキリ 廻つて
      すぐ 逃げる

蛙に 蛇の目を
  ちよいと お見せ

びつくりして
  とびあがつて
      すぐ 逃げる

鬼に 鐘馗しやうきの面を
  ちよいと お見せ

びつくりして
  キヤツ と いつて
      すぐ 逃げる


廻れ廻れ
輪になつて廻れ

牛舎うしやの仔牛は
ゐなくなつた

親牛ヤ寝たきり
まだ起きぬ

廻れ廻れ
輪になつて廻れ

牛舎の仔牛は
ゐなくなつた

親牛ヤ寝たきり
まだ起きぬ

廻れ廻れ
輪になつて廻れ

牛舎の仔牛は
ゐなくなつた


急ぎやれ急ぎやれ
この道は

こんこん狐の
出る道ぢや 出る道ぢや

さアさ急いで
通りやんせ

おおこわこわや
狐はこわや

こんこん狐が出りやこわや

急ぎやれ急ぎやれ
この藪は

日暮にや狐の
出る藪ぢや 出る藪ぢや

さアさ日暮ぢや
急ぎやんせ

おお こわ こわや
日暮はこわや

こんこん狐が出りやこわや

急ぎやれ急ぎやれ
この橋は

雨夜にや狐の
出る橋ぢや 出る橋ぢや

さアさ急いで
渡りやんせ

おお こわ こわや
狐はこわや

こんこん狐が出りやこわや

底本:「定本 野口雨情 第三巻」未来社
   1986(昭和61)年3月25日第1版第1刷発行
底本の親本:「螢の燈台」新潮社
   1926(大正15)年6月15日刊
初出:よいよい横町「東京日日新聞」
   1926(大正15)年1月4日
   雨降りお月さん第一節「コドモノクニ 臨時増刊」
   1925(大正14)年1月
   雨降りお月さん第二節(原題 雲の蔭)「コドモノクニ」
   1925(大正14)年3月
   梅の小枝「コドモノクニ」
   1926(大正15)年2月
   俵はごろごろ「金の星」
   1925(大正14)年12月
   田甫の鳥追ひ「日本少年」
   1926(大正15)年1月
   兎が来い「金の星」
   1926(大正15)年2月
   狐の提灯「金の星」
   1926(大正15)年3月
   一本橋「金の星」
   1925(大正14)年7月
   雪こんこん(原題 雪雪こんこん)「幼年倶楽部」
   1926(大正15)年2月
   木の葉の駈けくら「少年時代」
   1925(大正14)年10月
   お馬と仔馬「婦人倶楽部」
   1926(大正15)年2月
   鳥の番雀の番(原題 番ごつこ)「金の星」
   1925(大正14)年10月
   鳶のお昼寝(原題 鳶の昼寝)「金の星」
   1925(大正14)年11月
   お猿の顔「幼年倶楽部」
   1926(大正15)年1月
   霜夜の狐「コドモアサヒ」
   1924(大正13)年11月
   雀の使ひ「少女倶楽部」
   1925(大正14)年1月
   粉雪「週刊朝日」
   1924(大正13)年1月1日
   カツコ鳥「コドモノクニ」
   1925(大正14)年5月
   高野山「金の星」
   1924(大正13)年9月
   はぐれ鳥「金の星」
   1924(大正13)年7月
   おめめとおてて「コドモノクニ」
   1924(大正13)年4月
   箱根の山「コドモノクニ」
   1924(大正13)年6月
   蟹の御飯炊き「コドモノクニ」
   1924(大正13)年7月
   鼠の嫁入「金の星」
   1924(大正13)年1月
   かもめ「コドモノクニ」
   1925(大正14)年6月
   尾上の松「コドモノクニ」
   1925(大正14)年1月
   機織り「コドモノクニ」
   1925(大正14)年2月
   鼠の小母さん「金の星」
   1924(大正13)年1月
   七つ星「コドモノクニ」
   1925(大正14)年4月
   芒の穂「金の星」
   1924(大正13)年11月
   影踏み「金の星」
   1923(大正12)年10月
   眠り亀の子「金の星」
   1923(大正12)年11月
   雀の機織り「金の星」
   1924(大正13)年3月
   宮城野の萩「金の星」
   1924(大正13)年8月
   秋の月(原題 石山寺の秋の月)「金の星」
   1924(大正13)年10月
   こほろぎ遊び「金の星」
   1924(大正13)年10月
   かくれんぼ「金の星」
   1924(大正13)年3月
   雲雀の水汲み「金の星」
   1924(大正13)年5月
   鶯の夢「婦女界」
   1925(大正14)年1月
   藪の下道「金の星」
   1924(大正13)年6月
   赤とんぼ(原題 金魚と鶏)「金の船」
   1922(大正11)年4月
   お母さんと一緒「児童の心」
   1922(大正11)年8月
   銀の鈴「児童の心」
   1922(大正11)年10月
   お客にゆく日「児童の心」
   1922(大正11)年5月
   柿の木「児童の心」
   1922(大正11)年1月
   山ほととぎす「少年倶楽部」
   1924(大正13)年7月
   兎のダンス「コドモノクニ」
   1924(大正13)年5月
   虫の音楽「少年倶楽部」
   1924(大正13)年9月
   螢の飛行機「少年倶楽部」
   1924(大正13)年8月
   四つの星「少年倶楽部」
   1924(大正13)年2月
   案山子「少年倶楽部」
   1924(大正13)年10月
   お留守「コドモノクニ」
   1924(大正13)年9月
   夜明け烏(原題 夜明けの空)「婦女界」
   1924(大正13)年9月
   一ツ目小僧「主婦之友」
   1922(大正11)年4月
   松虫(原題 可哀想な松虫)「コドモノクニ」
   1924(大正13)年10月
   木の葉「コドモノクニ」
   1924(大正13)年12月
   夢とり「金の星」
   1924(大正13)年4月
   羊来い(原題 羊よ来い来い)「金の星」
   1924(大正13)年4月
   あわて鬼「少年倶楽部」
   1924(大正13)年6月
   鳶の笛吹き「少年倶楽部」
   1924(大正13)年5月
   兎と狸「少年倶楽部」
   1924(大正13)年11月
   霜夜は寒い「少年倶楽部」
   1924(大正13)年12月
   あの山蔭「金の星」
   1925(大正14)年3月
   雀踊り「金の星」
   1925(大正14)年2月
   子供と象「婦人倶楽部」
   1925(大正14)年11月
   鳩さん茶買ひ「金の星」
   1925(大正14)年8月
   ひとり旅「コドモノクニ」
   1925(大正14)年12月
   お供は後よ「コドモノクニ」
   1925(大正14)年10月
   榧の実「コドモノクニ」
   1925(大正14)年9月
   ねむの木「コドモノクニ」
   1925(大正14)年8月
   螢の燈台「コドモノクニ」
   1925(大正14)年7月
   鼠・蛙・鬼「コドモノクニ」
   1926(大正15)年1月
   牛舎の仔牛「コドモアサヒ」
   1924(大正13)年2月
   こんこん狐「婦女界」
   1924(大正13)年12月
入力:川山隆
校正:noriko saito
2010年4月18日作成
2010年11月5日修正
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