“同塵居” 誓詞に代へて
我昔所造諸悪業
皆由無始貪瞋痴
従身語意之所生
一切我今皆懺悔

  三帰礼
自から仏に帰依し奉る 当に願はくは衆生と共に
大道を体解して    無上意を発さん
自から法に帰依し奉る 当に願はくは衆生と共に
深く経蔵に入りて   智慧海の如くならん
自から僧に帰依し奉る 当に願はくは衆生と共に
大衆を統理して    一切無礙ならん
願以此功徳 普及於一切
我等与衆生 皆共成仏道

輝かしい新世紀の黎明。――
午前九時、聖寿万歳斉唱、黙祷。――
新年誓詞――
“こゝに昭和十五年の元旦を迎へ恭しく聖寿の万歳を寿ぎ奉り、いよ/\肇国の精神を顕揚し、強力日本を建設して新東亜建設の聖業完遂に邁進し、もつて紀元二千六百年を光輝ある年たらしめんことを堅くお誓ひ申します。”



二月十一日

 曇――雨。
紀元節、新らしい世紀を意識し把握し体得せよ、殆んど徹夜だつた、句稿整理。
午前、道後温泉入浴、護国神社参拝、午後、一洵兄と同道して月村君を訪ね、三人打連れて漫歩漫談、降りだしたので急いで帰つた。
今日も飲みすぎだつた、酒を慎しむべし、己を省みるべし、シヨウチユウよ、さよなら!(消極的に日本酒だけを味ふべし)落ちついて雨ふる、雨ふりて落ちつく。……
徹夜執筆。――

門外不出、終日徹夜して専念に句稿を整理する、みづから選ぶ、――むつかしい/\、つゝましくすなほに、しづかにおちついて仕事をする、善哉々々。
一昨日、S寺で書きなぐつた全紙の揮毫が気になつてしやうがない、破るべし/\、破らなければならない/\、一洵炊君にたのんで何とかしてもらふことにして、ほつと安心、こだはるな/\、よか/\。
(酔中乱筆、なつちよらん!)

二月十三日

 雨――曇。
あまり寝ないで稿をすゝめる、明日までには“鴉”を、数日内に一代集の原稿をまとめなければならない。……
藤君へ手紙をやつと出した、ほつと冷汗を流した、書きたくない、しかも書かなければならない手紙だつた!
散歩がてらポストまで出かけた、買物いろ/\。
一杯機嫌でうたゝ寝してしまつた、眼が覚めたらもう夕方だつた、道後へ出かけて理髪入浴、一洵炊居へまはつて戻る、身心何となく不調、今日は今夜はなまけてしまつた。
途上、菜葉一株拾うた、煮て食べる。
夜をこめて鳴くのは蟇だつた、鳴く鳴く、歩く歩く。
風、悪夢、下痢、――いやな一日であつた。
・※[#「簔」の「竹かんむり」に代えて「くさかんむり」、6-15]虫の言葉
・蟇の春
  今日の買物
酒三合  七十五銭
昆布巻  十八銭
酢    五銭
大大根  十六銭
目刺   十五銭
水仙   三銭
ハガキ  十銭
バツト  九銭

二月十四日

 曇――晴。
早起、徹夜するつもりだつたのに、身心不調で今夜もなまけてしまつた、九時ごろ出かける、古町まで歩いて、そこから電車で高浜へ、澄太君を迎へるために、待つ間、しみ/″\海を眺めた。
一時、同道して帰庵、酒も豆腐も買うて貰つて、歓談はつきない、高橋一洵さん来庵、おいしい漬物を持つて来て下さつた、夕方、藤岡政一さんも来庵(お酒とお手紙とはほんたうにうれしかつた、涙ぐましかつた!)、手土産として、さらに大ママ柑やら田舎饅頭やら、……ありがたう、ありがたう。
四人楽しく酔ふ(必ずしも酒ばかりに酔うたのではない)、寄書したり半折を書いたりする。
十時前にいつしよに道後温泉へ出かけたが、私は途中で酔が出て、たうとうT屋に倒れこんでしまつた、すまなかつた、何しろ私一人で一升近く飲んだものだから。
今日の酒はうまかつた、ありがたかつた。
    ┌どんぐり ┌どんぐり先生(一洵)
“三鈍”│どんこつ │どんこ和尚(澄太)
    └どんびき └どんびき老

豆腐の佃煮とは!

“草庵きのふけふ”

早朝帰庵。――
一洵居に大山君を見舞うたが、早すぎて格子戸があけてなかつた、再び訪ねたときは遅すぎて、すでに出立後だつた(今朝は時計のないのが口惜しかつた)、といふ訳で、学校で、どんぐり先生に逢うて、昨夜来のことを報告する。
近頃おかしかつたのは、昨夜、T屋で田舎娘と床を並べて寝てゐたことだつた(安宿で合宿だから)、うれしかつたのは煙草を切らして困つて朝まだきに途上の人から二三本頂戴したこと。……
春光うら/\、駅まで歩いて行く、京都の豊田さんからの贈物――赤蕪漬――を受け取つて、いそ/\その桶を抱いて戻つた、途中和蕾居と一洵居とに寄つて句会のことを相談して取極めた。
毎日、友情につゝまれて、ほんにあたたか!
ゆつくり晩酌、冷酒を呷らぬこと。
このごろ、よく物忘れする、老はおのづからあらはれる。
駅で千人のマヽ“力”の字を書いてあげた。
夜を徹して仕事、がんばれ、精出せ、しつかりしろ。
今日明日(旧正月八日九日)は有名な椿祭で街は人出が多い、春らしい風景だ。
松山のやうなよい場所で、そしてこんなによい知友があつて、よくなれない私なら。――
山頭火俳句とは三一体らしい!

“椿祭”(縁起笹)

霜、バケツの水がつめたい。
ちよつとポストまで、練兵場は練兵中で横切れないので、学校の方をまはる、おかげで途上二三句拾つた。
藁屑を焚いて火鉢用の灰をこしらえる、このごろの私としてはめづらしいなごやかさである! なか/\寒いけれど、春が来たのに間違ひはない。

早起きして執筆。
詮方なくポストまで出かける、途中、突撃教練の動作を眺めて感激した。
練兵場の枯草にも雲雀が春をよろこんでゐる!
午前は一洵君来訪、大いに画筆を揮はれた、午後は二神姉妹来庵、花をいろ/\持つて来て活けて下さつた、モナカもおいしかつた、ありがたう。
今日はみんないつしよに茂君からの贈物赤かぶら漬を味つた、茂君よ、よろこんで下さい。
ゆくりなく、或る事に於て自分の卑しさを見つけた、ああ、放下せよ、超越せよ。
夜はまたポストへ、ついでに入浴、空瓶を酒に代へて晩酌にめぐまれた!
どんびきが寒いのでひつこんでゐたが、また出て来た、今夜もあぶなく踏みつけるところだつた。
伊予密柑は萩密柑の分家ださうなが、ゴツイ/\、ヱライ/\。
愉快な一日だつた、快く酔うてよう眠れた、借りて来てある漱石の小品も読まないで、床に入るなり、ぐう/\ぐう/\。
ぼんやりしてゐることは、とき/″\は、なか/\によろしい、ありがたい。

二月十八日

 快晴。
清明を感じる、風は冷たいけれどなごやかであつた、未明、眼覚めて起床、よねんなく執筆、暁天にひゞきわたる護国神社の太鼓の声は尊い。
午後は柿の会第二回句会を開催する、来会者は六名――一洵、月村、柳女、布佐女、和蕾、無水――だけだつたが、親しみのある会合であつた、夕方一先づ散会、一洵無水和蕾の三君は居残つて、朱鱗洞の句碑建設について相談した。
いろ/\御馳走を頂戴してありがたかつた、労れてすぐ寝床にはいつた。
俳句的――俳句性
  単純――

二月十九日

 晴――曇――雨。
早起執筆、怠け者の忙しさである。
朝焼は美しかつたが、だん/\曇つて、たうとう雨になつた、寒い々々、冷たい々々、夜は雨になつてぬくい/\。
十時頃、一洵君来庵、同道で布佐女さんを見舞ふ、大したことがなくて安心した、お土産は茶掛三枚(一洵君の絵に私が賛句したもの、お互に心臓は強いぞ/\!)。
徹夜で句稿整理。
いつとなくどこからとなく鼠が来てゐる、猫はお先に来てゐる、油断大敵ですぞよ!
夜々の雨の音はよろしいな、おちつける。
人間は未完成でも(それがよろしいけれど)、制作はそれ/″\完成品であるべし。

若さと老
└┐ └────┐
 赤い手と青白い手をならべて――

“三ドン物語”(ドンコ和尚、ドンビキ先生、ドングリ翁)

“早春日記”“松山散策ところ/″\”“野人断想”

二月廿日

 雨――曇。
しと/\ふる雨の音、白みくる暁の色、――せんねんに句稿整理、――月が出て来て、句を作らせた!

二月廿一日

 快晴、午後多少の曇。
午前中にやつとこさで句稿をまとめあげた、さつそく速達で東京へ送つた、やれ/\御苦労々々々。
午後一洵来庵、勧められて私もM家の埋骨式に列する、墓も人も金持の臭味がないでもなかつた。
風、風、春風がまた木枯になつた。
一洵君を通して、村瀬さんから明晩招待される、ありがたう。
健から来信、ありがたうありがたう、キユツと一杯! うまいなあ! 夕はまた街へ出かけて一本仕入れて帰り、チビリ/\、仕事をすました安心と、早く送金してくれた嬉しさとで、ほどよく酔うて、ぐつすり睡つた。

未明起床、残つたゞけを飲む、身辺整理、私には私では割り切れないものがある
小雪ちらほら、なか/\寒い。
夕方早く一洵君徃訪、同道して村瀬氏方へ推参、相客二人(支配人F氏、校長S氏)、酒は白鹿、寄せ鍋はぽつぽと湯気を立てる、主人夫妻は温情をばらまく、私も今夜はとりわけ野人の本領を発揮して、飲んだ々々食べた々々!
揮毫は苦しくないでもなかつたが、刀剣拝見は珍らしかつた。
だいぶ更けて解散、途中、五十三銭浪費して無事帰庵。
┌単純      ┌自由律
└直観      │自然律
         └必然律

二月廿三日

 晴、日本晴。
天も地も私もうらゝか(朝は霜白く土は凍てゝゐたけれど)、まつたく春! 障子をあけはなつて春を呼吸する。
高商生伊川君ひよつこり来訪、しばらく雑談、ひきつゞいて、和蕾君来庵、空箱、釘、密柑を持つて来て下さつた、ありがたかつた。
うち連れて、ついそこの龍穏寺へ参詣する、なか/\の人出で、露店もたくさん出てゐる、私は和蕾君に、処女会の桜餅を買て貰つた、うまかつた、春の匂ひがする!
有名な孝子桜又の名十六日桜は親木が朽ちて若木がはかなくもたつた一輪の花をつけてゐた。
ほんに一輪咲いて一輪

二月廿四日

 春、春、春。――
四時前後起床、月光あまねく万象きよらか。
午前、一洵君来庵、漫談もまた楽し。
夕暮、ポストまで出かける、酒樽の誘惑にまけて、米代を酒代に代へて戻る、甘いやうな苦がいやうな。――
澄太君から、よか/\といふ返電が来た、うれしい。
よい月夜であつた(旧正月の十七日)。

二月廿五日

 雨――曇――晴。
護国神社のマヽ鼓と共に起きる、せつかくの日曜日が雨で気の毒だ、私は雨傘がないので、しやうことなしに蟄居、雨もわるくない、落ちつかせてくれる、日記、句稿、書信など整理する。
ちよいとポストまで、あゝ、あたゝかしありがたし、練兵場では、雲雀がのんきにうたつてゐた、草がぼつ/\青んで来た、綿入をぬがう、足袋をはくまい。
密柑の皮を煮る、砂糖代用として飴玉二つ三つ入れて。
けふも途上で、菜葉一株拾つた、お汁の実にした。
宵から寝床の中で読書、極楽々々、すみません/\。

起床してから、東雲神社の大鼓、そして護国神社の大鼓がとうとう鳴マヽりだした。
すなほに/\、こだはるな/\、――これは今日此頃殊に私が自分に言つて聴かせる言葉である。
春寒し――早春の感じはよろし。
午前中、高商生二名来訪、ちよつと新俳句について話す、珍らしくも魚売婆さんがくる、いやだから、きつぱりと断りきる。
おとなりから芹のおひたしを頂戴する、おいしかつた、早春の匂ひだ。
午後はポストまで、ついでに洵汀居を訪ねる、しばらく雑談してから、同道して、道後山へ観梅と出かける、紅梅林で、しかも散りぎわで、いやらしかつた、梅は白梅、咲きそろはないうちがよろしい、ぶら/\かへつて来たが、よい散歩だつた。
一洵居で、めづらしくもまたきなこ餅の御馳走になつた、そしてまた一洵君が濁酒の代りに豆腐を買うてくれた、多謝。
夜は“遍路行”推敲。


二月廿七日

 晴、春光あまねし。
早寝早起で、有明月夜がとてもよかつた、夜の明けないうちに御飯をすまして、夜が明けると道後へいつた、春霜が冷たかつたけれど、入浴して顔を剃つたらさつぱりした。
魚売のいやな婆さんがけふもまた来た、すげなく断つた(銭もないのだが)、悪く思はないでくれ、いやなものはいやなんだ!
昼御飯でも食べようかとしてゐるところへ一洵汀さん来庵、春らしくのんびり話す。
洗濯、裁縫、漬物、そして揮毫。
新聞代を払ふ、電燈料も払はなければならない、酒代どころか米代もなくなつた! 金持にならうとはもうとう思はない、貧乏でもかまはないけれど、米だけは不足なしに暮らしたい。
“草庵昨今”“山水行脚”

二月廿八日

 曇、小雨。
ゆつくり朝寝した、私としては。
朝、無門関第一則――趙州狗子
今朝からは新聞がある、一つのよろこびである。
苦労しなさい、苦労は薬だ、毒薬だ、良薬だ、私はさん/″\苦労をつゞけてゐる、毎日毎日、手紙を書いては出してゐる、通信費が嵩むには閉口する、うれしい悲鳴だけれど。
三時頃、一洵老来庵、お土産ありがたう、郵便局まで同道する、安君へ悪筆発送、ほつと安心。
何となく憂欝、疳癪玉が破裂しさうで、自分ながらハラ/\する、情ないことだ!
春らしく降る雨、シケてもこぼすな、それマヽ芽を吹かせ花を咲かせる雨だから。
宵にしばらく寝て、それから不眠、身辺整理。
回光返照――
ふりかへりみるこゝろ。
ぢつと待つてゐる心がまへ。

何々しなければならない生活。

二月廿九日

 曇、閏の今日である。
早くから眼は覚めていたけれど、――護国神社の大鼓が鳴りだよマヽり起きた。
おごそかに、そしてしめやかに明けてくる――日々好日。
私の生活もやうやくにして、自分の本性にかへり、本調子になりつゝあるらしい、賀すべし、励むべし、けふも洗濯、縫物、そして揮毫(調子がよろしくなかつたが)。
昨年度の映画の中でベストワンといはれる“土”の入場券を貰つてゐたけれど、たうとう――行かず仕舞になつた、衰へたるかな山頭火、いつまでも青年性を失はないであれ、老いても老いぼれたくない、若い老人のよさを保持せよ。
一時、一洵さん来庵、三月三日の吟行について相談する。
或る事に於て、自分で自分の早合点がおかしかつた。
やつとポンプの修理が出来て、前の井戸から汲むことが出来るやうになつた、貰ひ水といふものはなか/\厄介なものである。
山から下りて来た子供が花――私の好きな藪椿をくれた、ありがたう、壺に投げ入れて飽かず眺める。
ポストまで出かける、なでしこを幸にして見つけた、葱一把九銭、葱は蔬菜のうちで、高いことも高いが旨いことも旨い。
いよ/\一文なしになつてしまつた、私にあつてはあたりまへの事だけれどやつぱりさみしい!
不孝者! とたえず反省の声が私につぶやく、今夜はぐつすりと睡れた。
人、猫、鼠、小鳥

“一草一人”俗仙人

三月一日

 曇、興亜奉公日を忘るゝなかれ
けさは早かつた、なか/\夜が明けなかつた、雪、雪が降つて積んでゐる、めづらしい雪だ、明けはなれゆく雪のしづけさ。――
身心清明。
雪見酒といふところだが。……
米があり、炭があり、煙草があり、……今日の私は幸福である、合掌。
昨日も寒かつたが今日も寒い、また綿入をかさねる。
護国神社参拝者が今日は特に多い、拝殿前に並列して合唱する女学生の姿が見え、声が聞える、雪はしづかに人はつゝましく、ああ。
朝から待つものは先づ郵便、それから新聞、それから友達、それから。――
葱はおいしい、その生長力にも驚かされる、切つて置いた茎の中からぐい/\芯が伸び出てくる!
春の雪である、積んだといつても解けやすい、日がさしてくるとたちまち解ける、風も吹く、家をめぐつて雪解の水のしづくする音が賑やかだ。
早春の気まぐれ日和が私をあかぎれでいためる、漬物石を探しまはりつゝ、さて。――
夕方吟行の事で和蕾君を訪ねる、帰途、泰山木の一枝を黙つて頂戴した! 泰山木はよいかな、よいかな、よいかな。
身心何となく不調、早寝する、なか/\寝つかれない、句作一途の私であつたが、さうするより外ないが、私には世間的な生活能力がないのだ。

三月二日

 晴、冷たい、薄氷が張つてゐた。
快眠したので気持よく眼が覚める、起きると間もなく護国神社の大鼓が鳴りだした。
すなほな朝である、おちついて執筆。
日本晴、何となく神代日本、古代日本を思ふ、そして日本的なものを感じる。
蓴子君からまた入間海苔を頂戴した、お隣へもお裾分する、感謝々々。
澄太君から金堂のヱハガキ、北国はまだ/\寒からう。
右手の親指のあかぎれが何かにつけて不自由を感じさせる。練兵の声が折々聞える。春光熈々、洗濯、裁縫、等々。
道後へ出かけようとしてゐるところへ一洵君来訪、明日の吟行の打合をする。
注意深くあれ、或る事に於て、そゝつかしい自分を観て情けなかつた。
腹工合がよろしくない、食べすぎが源因だらう。
夕方、出かけて、質屋で少し借りる、すまないと思ふけれど仕方がない、背に腹はかへられない場合である、さつそく米を買ふ、ハガキを買ふ、大根を買ふ、……酒も煙草も買ふ、おかげで助かつた、ありがたう/\。
夜、しづかに飲んだ、九日ぶりの酒である、うまかつたことはいふまでもない、あゝ酒飲はつらいかな。
オツチヨコチヨイを清算せよ、貪心を去れ、――事実に即していへば、梯子酒を飲むなといふのである。
ほどよく酔うて、ぐつすりと寝た、好い一日ではあつた。
自然性
  簡易性
  清浄性
  妥当性
    調和性
┌感性
└知性
  みだれざる情熱

三月三日

 曇。
熟睡の熟睡だつた、護国神社の大鼓も知らなかつた、起きるより先づ一杯、そして道後へいそいで一浴。
九時前に出かける。市駅で連中といつしよになる、十時の汽車で田ノ窪へ、そこから一里ばかり歩いて拝志の小山邸へ、同行は一洵、月邨、三土思夫妻、布佐女、栗田姉妹、――男四人の女四人で、賑やかであつた、田舎はよいなあと思ひながら野を行き川を渡つた、皿ヶ峰は特殊の上形をひろげてゐた、重信川はすつかり涸れてゐた。
小山邸は昔風の大きい空屋敷だつた(庄屋であつたさうな)、庭園が広くて万両がこゝにもそこにも赤い実をかゞやかせてゐた、老梅もよく、大南天もおもしろかつた、すべてに旧家らしい色彩と香気とが残つてゐた、ゆつくりお辨当を頂戴して句座を開いた、まことにのんびりした会合だつた、帰途はまた賑やかに田ノ窪駅まで歩いて、五時の汽車で市駅まで、そこから私は一人で歩いて戻つた、かなり草臥れた。
火鉢に火があつたのはうれしかつた、熱いお茶で食べた食べた、そしてすぐ寝た寝た。……
今日も好い一日であつた。
“早春の一日”

三月四日

 曇、午後は雨。
明けはなれてから起床、あたゝかいのが何よりだ、昨日の春蘭を植える、蘭、ことに野の蘭は好きだ。
門外不出、つゝましく読書、清閑を楽しんだ。

三月五日

 雨――曇。
早起、四時前だつたらう、なか/\大鼓が鳴らなかつた。
まだ降つてゐる、しと/\しと/\春雨らしく。
和尚さん久しぶりに帰山。
藤君から、指月堂君から、北支出征の横君からハガキ。
支那を考へるとき、支那にある日本を考へるとき、私たちのこゝろはいたまざるをえない、……よきにつけよくないにつけ。
午後、霽間をちよつとポストまで、どうでも雨傘一本買はなければならない。
明日から当寺の御祭礼といふので、近所の人々がやつて来て、幟を立てたり何かしてゐる、大国旗小国旗、“御幸山大権現”の幟が何本も立てられた。
今晩の御飯はとても出来がよかつた、御飯炊は下手でない私ではあるけれど、これはまた格別においしかつた。
早寝、夜中に眼覚めて読書。
  今日の買物
十八銭  はぎ三
十銭   密柑五
四銭   湯銭
六銭   豆腐一
三銭   金盞花一把
二十銭  草餅十
   合計金六十一銭也
  今日の三食
 ┌大根
朝│
 └漬物(白菜)
 ┌豆腐 │
昼│   漬物
 └海苔 │
 ┌汁  │
晩│   〃
 └若布
 お茶受
   草餅、キヤラメル、密柑。

三月六日

 曇――晴。
けさもずゐぶん早かつた、早すぎた、何もかもかたづいてもまだ夜が明けなかつた。
亡母第四十九回忌、御幸山大権現祭日、地久節、母の日週間。
出校の途次、一洵さん立ち寄る、母へお経をよんでくれる、ありがたう、望まれて近詠少々かいてあげる、いづれ何かの埋草になるのだらう。
道後で一浴、爪をきり顔を剃る、さつぱりした。
仏前にかしこまつて、焼香諷経、母よ、不孝者を赦して下さい。
道後から帰つてくると、驚いたことには、お寺への参道に――庵ちかく――露店が数々出てゐた、駄菓子店、おでん店! ※(「飮のへん+稻のつくり」、第4水準2-92-68)焼店、果物店、……おでんやには私も苦笑した。
近所の男女が庫裡で御馳走をこしらへてゐる、おまつりは、いはゞ親睦会である。
ちらりほらり参詣人が登つてくる、午後、墓地の広場で護摩が焚かれた、もつたいぶつた坊さん数人、俄ごしらへの山伏数人、それらを囲んで参拝者が数十人、……野天の護摩の焔、――よいものがある。
練兵場から機関銃の音、突喊の叫声がしきりに聞える。
今日はまつたく春の気候だつた、ぬくたらしいほどだつた、綿入をぬぎ火燵をとりのけ、そして火鉢もうるさい位に。
のんびりと寝た、仏前からおさがりをいたゞいて。――
“三月六日の記”

三月七日

 曇、春ぐもりらしい、花ぐもりとまではいへないけれど。――
ゆつくり朝寝、といつても七時には起きたが、けさは郵便が来なかつた、さみしいな。
ぺんぺん草を活けて楽しむ、春蘭の蕾もふくらんでくる。
机上整理、――揮毫、書信、原稿、等々。
井師、斎藤さん、大山君へ手紙をだしてほつとした、自分ながら自分のぐうたらにあきれる。……
……私も“山頭火一代集”ともいふべき此句集の刊行を転機として転一歩したいと念願してをります、これでは私はまだ/\落ちつけません。……
老を楽しむ、――酒を味ふ、――さういふ境に参じたいものであります。
などゝ書いて送つた。
ようこらへるぞ、――と私は私を励ましてゐる、一杯やりたいのをぢつとこらへてゐる、疳癪をぐつと抑へつけてゐる、私もだん/\ほんたうの私に落ちついてゆくらしい、澄太君が“坐を定めたる山頭火”と説いたが、その坐は一草庵の坐だけでなく、私本然の坐でなければならない。
出て歩くと、春風しゆう/\、ほうつと霞んでふわり/\雲が遊んでゐる。
夕方郵便局へ出かけたついでに街を散歩する、帰つて来て、何となく身心の不調を感じてすぐ寝る。
身心多少の不調はかへつてよろしい私のやうなものには。――
無理のない随つて嘘のない生活
 水の流れるやうに生きたい。

三月八日

 曇、小雨。
おとなりの紅梅がうつくしい(松山には紅梅が多い、それを好く人も多いらしい)、降りそぼる雨は春雨だな、ふと見ると、門前にめづらしく俥が来てゐる、御祈祷をしてもらふ人が詣つたらしい、やがて※(「磬」の「石」に代えて「缶」、第4水準2-84-70)が鳴りだした。
久しぶりに頬白のさへづりを聞いた、方々から来信、方々へ発信。
今日の御飯はおいしかつた、こゝろすなほな一日だつた。
・釜飯の話
  附、飯櫃[#「飯櫃」の左に「(オハチ)」の注記]の話


三月九日

 曇、晴れたり降つたり、風が吹いたり。
よい眼覚めであつた。
郵便が来なかつたので、とても寂しい。
刻煙草を手に入れたくて――昨日はどうしても見つけださなかつたので――ぶら/\古町方面を探したが駄目だつた、しようことなしにバツトを買つて帰つて来た。
何となくみじめな気分になる。……
花時風雨多、今日は風が出て雨がばらついた。
早夕飯にしてすぐ寝る(昼寝といふ方が妥当だらう)、わがまゝすぎる自分を恥ぢる、夢をたくさん見た。
ゆふべはなごやかだつた、どうしたわけか、西洋人夫婦が墓地の方から話しながら出て来て去つた。

三月十日

 快晴。
日本晴、陸軍記念日。
早朝、護国神社参拝、それから道後温泉入浴、やつとはぎを見つけてうれしかつた。
軍人学生聯合の攻防演習が練兵場を中にして行はれた、境内へも機関銃が持ちこまれた、砲声、号令、剣光帽影。……
青年団、処女会、国防婦人会、学生、民衆、……まさに総動員の態勢である、私も庵を開け放つて、今日の日を祝福した。
おとなりから粕漬、お寺から五目飯を頂戴した、何とでつかい胃袋! 自分ながら呆れる/\!
けふ始めてことしの蝶を見た、紋白蝶一羽。
ちよつとポストまで、途上、どんぐり先生に逢ふ、明朝出立、どんこ和尚を訪ねるといふ、どんびき翁からよろしくとたのんでおいた。
布佐女さん来庵、すぐ帰つて行く、気毒なうしろ姿!
おとなりの坊ちやんが山兎の仔を二匹捕へて来てゐる、山の日向で遊んでゐるところを捕へたといふ、親兎が心配してゐることだらう、私はいつも思ふ、人間ほど得手勝手な残忍な恥知らずの悪賢い動物は他にゐない
午後またポストへ、ついでに久しぶりに大街道散歩、松山はよごれてゐないといふ感じがする。
途中――練兵場で――少女用の赤い巾着を拾つた、新品で何も入つてゐなかつた、誰かの娘さんにあげよう!
今日はほんたうに珍らしいお天気だつた、朝から晩まで快晴で温暖だつた、そして私としてもつゝましい一日だつた。

三月十一日

 曇――雨。
早起、すつかり片づいてから、東雲神社の、それから護国神社の大鼓が鳴つた。
――ふんどしをこしらへた、古腰巻で! 私は痔が悪いから手製の特別なふんどしでないと用をなさない!
冷たい雨が落ちだした、昨日がよすぎたのだから不平はいへない、傘がないのでポストまで出かけられないのには困つた。
肌寒い日である、ああ一杯やりたいなあ!
もう一週間あまり一滴も注入しないのだから無理もありますまい!
門外不出、黙々として終日机辺を離れなかつた。
今日は冷えるなと見まはすと、遠山には雪がほのかにひかつてゐる、急に寒さを覚えてまた炬燵をひつぱりだした。……
“梛の葉”

朝、ポストまで、運よくはぎ一袋。
お寺の女性が洗濯して赤い布をひら/\させる、お寺にも春が来たかな!
――だん/\食べるものがなくなる――寒いな、心細いな。
――夕はあるだけの御飯を炊いて食べた、胡麻塩をふりかけて、――それでも数碗けろりと平らげるのだから、私の胃袋は強い々々!
友達への消息に――
伊予路の春は日にましうつくしくなります、私もこちらへ移つて来てから、おかげでしごくのんきに暮らせて、今までのやうに好んで苦しむやうな癖がだん/\矯められました。……
おちついて死ねさうな草萠ゆる
和尚さん来談、とりとめもない四方山話をしたが、予想してゐたよりも、文芸に理解のある新らしい老人だつた。
午後は松山散策、――立花から郊外へ(朱鱗洞君の墓を展した、昨秋の深更まゐつたときは酔中で礼を失したことが多く済まないと心が咎めてゐたが、これでほつと安心した)。
おだやかなねむり、千金万金にも代へがたいねむりだつた。

三月十三日

 晴――曇、そして風、雨。
眼覚めるより起きた、四時ごろでもあらう、すぐ執筆、朝食後は読書。
郵便が来て、そして軽い失望(待つともなく待つてゐるものが来ないから)。
煙草がなくなつた、こらへろ、こらへる/\、飲みたいか、飲みたいよ、待つてをれ、待つ/\。
無理をしないであせらないでいう/\として。――
ポストまで用があつて、そして松山散策、――商品陳列所で名産観賞、図書館で新聞閲覧、練兵行事拝見。
夕方またポストへ、ついでに藤君を訪ねる、にぎやかな、あたゝかな家庭かな、御馳走になる、サケ、サカナ、タバコ、……ほろ/\気分で帰つてすぐ寝た、句も夢もない一夜であつた、人のなさけのありがたさよ。
後味――酒はうまいなあ! 十日ぶりの酒はまたかくべつの味だつた、春雷、それも酒中の一興だつた。
或る事に於て自己の卑小を観せつけられた。
   今日此頃の私の日課
     ┌八時に郵便
午前は仕事┤
     └十時に新聞
午後は散歩、訪問、客来
夜間は勉強
    読書
    推敲

三月十四日

 曇――晴。
東雲神社の大鼓と共に起床、寝ね足りて、安易な気分。
絶食! 食べるものがないから、それを活用して身心清掃の一法として断食する、渋茶をすすつて執筆。
けさはすこしおくれて郵便が来て、軽い失望を残した。
昼食はぬき、ポストまで出かける、一洵、和蕾、無水君を訪ねて、句碑句会のことを相談する、腹がペコ/\では散歩もおもしろくないので早く帰る、帰つて来てもフラ/\だ。
夕方、一洵居徃訪、まだ講演旅行中、奥さんに事情を話して米を借りる、奥さんが親切なだけ私は恥づかしかつた。
おとなりの坊ちやんが山兎の仔は死んでしまつたといふ、それがほんたうだが、かあひさうなことだつた。
御飯が出来た、まづ仏さまに、それから山頭火に!
よく食べてよく寝た。
“山兎の仔よ”

未明起床、身辺整理、静座読書。
早朝、護国神社参拝、道後入浴、余寒春寒、そゞろに寒い。
――たうとうまで無くなつてしまつた!
午後はいつものやうに松山散策、――正宗寺拝登、子規堂、子規居士鳴雪翁埋髪塔、本堂のないのはさびしい。
暮方ねむくなつたから寝床にはいつた、そのまゝ寝入つてしまつた、こゝらが独り者の怠け者の気楽である。


三月十六日

 晴、なか/\冷たい。
寝床の中で明けの大鼓を聞いた。
快食快眠のよろしさ(快便とまではいへない、何しろ痔が破れてるから!)。
無門関第二則、百丈野狐。
文字通りの、ほんたうの、飯ばかりの飯を味ふ、無論、お菜が――塩もなくなつたからである(禁酒禁烟であることはいふまでもない)。
毎日の行事“松山散策”は、曇つて寒いので、今日は止めにした、外出する元気、散歩する余裕がないからである、衰へたるかな、山頭火、しつかりしなさい!
お寺から茄子の芥子漬を一皿下さつた、今日の場合、かくべつにありがたかつた、おいしかつた。
まことにつゝましい一日であつた。
昼寝から早寝へ、そのまゝぐう/\ぐう/\。

三月十七日

 晴れたり曇つたり、そして寒い。
東雲の大鼓が鳴り護国の大鼓が鳴る、それを聞いては起きずにはゐられない。
余寒がなか/\にきびしい、外井戸のポンプは氷結してゐて水が汲めなかつた。
朝焼がうつくしかつた。
明日から彼岸のためか、お墓まゐりがたえない。
私は今日も門外不出、しんねりむつつりで暮らした。

三月十八日

 曇、彼岸入、晴。
朝は早い私であるが、けさはかくべつ早かつた、四時ごろだつたらう、何もかもかたづいたのに、まだなか/\明けの大鼓が鳴りださなかつた。
あんまり寒いので綿入をかさねた、ぽか/\暖かくなつた。
いよ/\食べる物は一粒一滴も無くなつた、無一物底無尽蔵と澄ましてもゐられまいが。――
朝は寒かつた、小雪でもちらつきさうだつたが、午後は晴れてあたゝかくなつた、本格的春景色だつた。
藤居を訪ねて、奥さんに事情を話して、米と醤油とを借りた、恥づかしかつた、ありがたかつた。
帰つて来ると、一洵君が待つてゐた、旅行中だつたので久しぶり――といつても十日足らずの――来庵である、なつかしく話す、広島の柊屋の話はなつかしい。
澄君からキレイ一本頂戴した、しばらくぶりでコクのある酒を味つた、澄君ありがたう、一洵君ごくらうさま!
句会の事句碑の事で、午後、和蕾君を訪ねる、不在、無水君を訪ねる、また不在、さらに局の藤君を訪ねる、碧君にも逢つた。
帰途、一洵居に寄つて夕飯とそして一本! をよばれて帰つた。
落日がうつくしくおごそかであつた。
あたゝかくなつたので、さつそく綿入をぬいだ、身心は軽いほどよろしい。
やすらかに寝た。
ありがたかつたな、六日ぶりの酒、四日ぶりの煙、うまかつたな!

三月十九日

 晴――曇。
ほどよい目覚め、護国神社の大鼓の声と同時だつた。
このごろ、私は私にふさはしい生活をつづけてゐる、七円で二十日間つゝましく生きて来てゐる。……
眼が覚めると、まづ何よりもまづ/\一杯、大山君ありがたう、ありがたう。
郵便やさん寄らないで下の街道をまつすぐに去つていつた!
そこのポストまで、ついでにしばらく散歩。
昼食はシヨウユウライス、うまい/\。
お彼岸団子が食べたいな!
午後また散歩、寺町附近、ほんたうに寺が多い、寺ばかりだ、活けるやうな花は見つからなかつたが――松山の郊外には野の花が少ないが――三句拾つた。
夕方になつて、またもや出かけた、まづ一洵居を訪ふ、主人シヤツ一枚になつて庭造りの光景、そして遠慮なくよばれて、お土産まで貰つて十一時帰庵。
それからあるだけの酒と飯とを詰め込んで、乱筆酔筆悪筆を揮ふ、書かねばならないものを書いて安心。
雨が近いらしく、月は暈をかぶつてゐるが、それは朧月といひたいものだつた。
夜明けに間もないらしいころになつて寝床へもぐりこんだ。
松山で多いのは――
医院、社寺、おでんや

三月二十日

 曇、春らしく、晴。
とろ/\したと思つたら、もう護国神社の大鼓が鳴りだしたので起きた。
清朗を感じる、書債を果したので身心軽快。
東亜新建設の第一歩、新支那中央政府の誕生、王精衛さつさうとして登場、日支がつちり握手せよ。
そこらで鶏がしきりに啼く、お前も孤独の鳥だね。
朝から狼火が鳴る、道後の温泉祭だ。
けさも郵便は――やつと来た――失望を残して。――
墓地散歩。――
狂乞食がさまようてゐる、笹鳴を初めて聴く、探し求めてゐた藪椿はついそこの藪かげにあつた。
藪椿を活ける、藪椿は好きだな
裏の土手で、ゆくりなくも蕗のとうを見つけた、二つ、さつそく昼食はそれを煮て食べた、ほろ/\。
そこら散歩、練兵を観たり、吸殼を拾ふたり、……卑しいな、情ないなあ!
夕方から柿の会三月例会、一洵、三土思、無水、藤君、和蕾の五君だけ来庵、今晩は女性を欠いだ、なごやかな句座であつた、席上で朱鱗洞句碑建立の具体案がやゝまとまつたのはよかつた、十一時頃散会。
月がある、おぼろ月。
お土産ありがたう、三土思君、藤君。
お茶漬を食べて寝る、昨夜の睡眠不足ですぐ寝入つた。
――銭がないから命があるのだ、貧乏だから死なずにゐるのだ、――それが真実である、私の場合では。――

三月廿一日

 晴――曇。
春季皇霊祭、春分、彼岸の中日。
朝寝、すつかり明けはなたれてゐた、余寒がなか/\である、水をつかへば水のつめたさが身ぬちにしみいる。
藤君のお土産マグロを味ふ、うまかつた、私は刺身好き、好きな刺身なら二三人前はペロリと平げる。
風、風、風が吹きだした、強く、さらに強く。
久しぶりに道後へ出かけて入浴、買物をして戻る。
戻つて見ると、座敷に小豆飯が一皿おいてある、おとなりからだらう、ありがたう存じます。
風がたうとうばら/\雨になって[#「なって」はママ]解消した、たか菜を煮たり漬けたり。
煙草がない、数軒探しまはつたがない、詮方なく“光”を買ふ、貧乏人はユウウツにならざるをえない(刻煙草があるにはあるが私たちには高級すぎるものばかりである!)。
月光あざやかな夜になつた。
早寝、そして熟睡。
   今日の買物
十銭   饅頭
十銭   ハガキ
四銭   入浴料
五銭   塩
九銭   菜葉
十三銭  タバコ

三月廿二日

 曇――晴。
しづかな朝明けだつたが、寒すぎる春寒である、小雪がちらついた、私はまた/\綿入をかさねたことである。
鶲が近く啼きしきる、鶲よお前と私とには共通なものが流れてゐるやうだね
郵便が来ることは来たが――うれしいことはうれしかつたが、――だが、足りないものがあつた。
また食べるものが無くなつた。……
散歩、和蕾さんを訪ねて朱鱗洞句碑の相談をする、あまり寒いので早々帰庵。
昼食としてはイモとパンとがめぐまれた。
けふも風が、いやな風が吹く。
夕方また散歩に出かける、一洵居に寄る、Yさんあり、卒業記念として悪筆を揮はせられた、夕飯をよばれる、この一飯は百飯千飯ほどありがたかつた、藤君を訪ねる、いろ/\打合せて帰庵、練兵場の月がよかつた。
“持つ物、持たない物”

三月廿三日

 曇――晴、旧二月十五日。
春眠不覚暁――とでもいふのか、とかく不眠がちな私も此頃はなんぼでも眠れる。……
朝食なし、缺食老人だ!
今日は澄太君に逢へる日、うれしいな。
健から書留、ありがたう/\、御礼々々。
さつそく街へ出かけて買物をする、荷が重かつた、腹がぺこ/\なので!
まつたく春、好日好日大好日。
一杯一杯また一杯!
また街へ、また買物。
お寺から団子を貰ふ、おいしかつた。
道後へ、理髪入浴、藤君居に寄つて米代返金、債荷一つ果してほつとする。
――米もあり、炭もあり、塩もあり、そして煙草もあり、本もあり、そしてまた、酒もあり。――
暮れてまた道後へ、澄太君を迎ふべく、九時逢つた、大山君、井家上君、藤君、一洵君、辻田君、そして山頭火、共に湯に入り共にうどんを食べ、そして別れて私一人は一草庵へ戻つた。
酔と労れとですぐ寝入つた。
   今日の買物
五十銭   ハガキ切手
五十銭   番茶
壱円三十銭 酒
二十銭   醤油
弐十四銭  目刺
三十銭   削節
九十銭   米
二十三銭  麦
一円八十銭 木炭
十七銭   大根おろし
十四銭   カメリヤ
六銭    葱
壱円    米代返金
二十五銭  グリコ進物
三十銭   理髪
四銭    湯銭
十六銭   醤油壺
二十八銭  いろ/\
 この買物を見よ!

早起、まづ考へる、――酒を慎むべし酒を味ふべし
春寒料峭ともいマヽきか。
午近くなって[#「なって」はママ]、澄、井、藤の三君来庵、渋茶をすゝって[#「すゝって」はママ]雑談してゐるところへ、噂の清君来訪。
みんないつしよにそこまで出かけて、清君と私とは高商校へ、三君は修養会場龍穏寺へ。
高商で高橋さんとしばらく歓談、ライスカレーを御馳走になる、それから二人は電車で道後へ出かけて入浴、おでんやでパイ一、パイ二、それから大街道へ電車でのして、Tさんといつしよになり、三人でまた飲む、それからまたMさんも参加しててんぷらやそばやで食べる食べる、……こゝで私は失礼してお先きに一人帰って[#「帰って」はママ]来た、十六日の月が練兵場を照らし初めたころ。
――さしみ、てんぷら、そば、どれもみなおいしかつた、酒もわるくなかつた、近来にない牛飲馬

三月廿五日

 晴――曇――雨。
ゆつくり朝寝。
しづかにおちついて読書。
ぬくい/\、ねむい/\。
午後は例の如く松山散策、大街道のポストまで。
このごろまた食べすぎるやうだ、つゝしめ/\。

三月廿六日

 雨、どうやら霽れさうな。
早起、降つてゐる、せつかくの大挙湯山行はダメらしい。
朝から半鐘が鳴る、火事でないことを祈る。
たか菜の漬物がうまい、私が漬けて私が食べるのだから殊に、しと/\降る、ほんに春雨だな、目白が出て来て囀づりまはる、貴族的団体だ。
三時近くなって[#「なって」はママ]、約の如く、大勢来庵、澄君、井君、高君、藤君、そして辻君。
さつそくさかもりが初まる、豚、豆腐、臓物、菜葉、庵の饗宴らしい団欒である、主人もお客もない自他融合の賑やかさである、みんなよく食べよくしやべる、私もよく飲みよくしやべる。
暮れてからぞろ/\道後の湯へはいる、そして別れたが、私は――あゝ私は逆戻りして、ひとりでまた飲んだ、そして恥づかしくも貪と痴とを吐き出した!
更けて帰つて夢もなく寝てしまつた。……

――酔うてゐる、さらに飲む、いよ/\酔ふ、――澄太君来庵、君は私の酔態にマヽ易してゐることがよく解る、――そこへ一洵君も来庵、三人同道して道後の八重垣旅館へ押しかける、私だけ酒をよばれる、三人で悪筆乱筆を揮ふ、夕方、自動車で伊予鉄ホールの講演会へ出かけて、初めて澄君の講演を聴いた、よか/\。
いそいで、ひとりさびしくかへつた、酔ざめのはかなさせつなさ自から責めて自から詑びた

春光あまねし、自粛自戒、独を慎む、わざと澄君を訪ねないで、門外不出、清閑を楽しんだ。
午後、一洵君が見舞うて下さつた、ありがたう。
吉江孤雁氏逝去、過去を想ひだしてさびしくなつた、あゝ。
人に逢ひすぎるのはよくない、人間は人間の中だけれど、時々は人間を離れて人間――自分をも――観るがよい、私は近来人に接しすぎるやうだ、考ふべし。

三月廿九日

 晴――曇。
身心やうやく平静、すなほにつゝましく。
安君から来信、ありがたう/\。
道後一浴、のんびりする、今年最初の燕を見た、よい鳥である。
午後、大街道へ出かけて映画観賞(入場券を貰つたので)、あまりおもしろくなかつた、つかれてもどつて早く寝た。
有明月夜のさやけさ。

三月三十日

 曇、そして雨。
朝寝、朝焼はうつくしかつたが雨になつた、何となく憂欝。
やうやく刻煙草を探しあてたが、あやめ十二銭では困る、貧乏人が金持のまねをするやうな生活はいやだ!
食べることは大切だが食べることにとらへられるな
裁く勿れ自分を裁いても他人を裁くな
反省して恥多し悔多し恥じない生活悔いない生活、さういふ生活を生活したい。

身心すこしく不調、終日不快。
新支那中央政府の成立、そして南京遷都の記事が厳粛なものを与へる、いろ/\のことを考へさゝないではおかない、国民精神総動員といひ、東亜新秩序の建設といひ、そして闇取引のたえない事実といひ、国民的訓練の不足といひ、犠牲の不公平といひ……私のやうなものでも、自他に対して憤慨にたへないおもひがする。

四月一日

 曇、小雨。
数日ぶりに床揚げする、どうも身心がすぐれない、更始一新をひとりひそかに誓ふ。
春蘭が咲きだした、一二輪机上に活けてよろこぶ。
選句、勉強せよ、怠惰が何よりもよくない。
道後へ、爪をきり顔を剃る、味噌と大根とを買うて戻る、味噌百目十一銭、大根一本五銭。
あちらこちらで桜が綻び初めた。
昨日はおとなりから五目飯を、今日はお寺から小豆飯を頂戴した、感謝々々。

四月二日

 曇。
朝と共に起きる、身心軽快、朝月さわやかだつた、久しぶりに味噌汁を味ふ。
ポストまで出かける、うら/\うら/\、一洵居にちよつと寄つて、それから一緒に道後公園遊歩、白木蓮を見あげて旦浦時代のおもひでにふけつた。
あたゝかい風がさわがしく吹く、ほれ草が咲いてゐる、蠅が出て来てゐる。――
夕方また散歩、刻煙草をさがしたがさがしあてなかつた、苣萵を見つけて買つた、一株一銭は安い/\。
いたづらに腹がへる! 私らしい嘆息でせう! 或る友へのたよりの中に――
……私にはどうにもかうにも解けきらない矛盾のかたまりがあります、その矛盾を抱へて微苦笑する外ありません。……
あれからあまり外出せず、ガソリンも注入せず、時局相応のつゝましさを持してをります。
伊予路はすつかり春景色になりましたが、今春はぢつとして待ちませう、待つ心、それは大切なものだと思ひます、おちついてしづかにしづかに、そしてしづかに。……

四月三日

 雨、風。――
降る/\、よう降る雨だ、いちにち降り通した、せつかくの紋日がダメになつてしまつた。
無門関を読む。
――何もかも無くなりつゝある、――無と究尽すべし。――
午後は時化になつた、ずゐぶん吹きまくつた、屋根のトタンがとんだ、花がちぎれて散つた、春の嵐、花を咲かす雨であり、そしてまた花を散らす風である、私は寝床で風を聴いて暮らした。

四月四日

 晴。
嵐のあとのしづけさむなしさ。
朝は渋茶二三杯。
貧乏はつらいな、質草をさがしだして、当面の生活費だけやうやく捻出したが。……
名もない草を活ける、ちしやもみがおいしかつた。
飲まずにはゐられないから飲む、飲めば酔ふ、酔へば乱れる、あはれ/\。

四月―日

 晴、曇、雨、風。――
散歩、酒、花、人、悔恨。……
――貰ふか、盗むか、拾ふか、買ふか。――
或る夜、招かれて御馳走になつた、そして憂欝になつた。
桜が咲いて、なか/\寒い。
昨日も今日も、何日も寝てゐた、起きあがる気力がなくなつたのである。
一転二転三転、そして。――
随時随処、花らんまん人らんまん。

五月八日

 晴。
早起、清掃。
父の十九回忌、仏前にぬかづいて懺悔の熱涙をしぼる、憂欝たへがたく、道後入浴、近郊散策。
 ――
  ――
   ――

早起出立、中国九州の旅へ、――九時の汽船で広島へ向ふ。
身心憂欝、おちついてはゐるけれど、――この旅はいはゞ私の逃避行である、――私は死んでも死にきれない境地を彷徨してゐるのだ。
海上平穏、一時宇品着、電車で局にどんこ和尚を訪ふ、宅で泊めて貰ふ、よい風呂にはいりおいしい夕飯をいたゞく、あゝどんこ和尚、どんこ和尚の家庭、しづかであたゝかなるかな、私もくつろいでしんみりした。
夜、後藤さん来訪、三人でしめやかに話した。
罰あたりの私はおそくまで睡れなかつた。

早起、一雨ほしいなと誰もが希ふ。
いつもの飲みすぎ食べすぎで多少の腹痛と下痢、自粛しよう、しなければならない。
朝、奥さんは道後へ、私は山口へ。――
己斐までバスと電車、賃金七銭、何といふ安さ、もつたいないと思ふ、折よく九時の列車に乗れた。
バスの中ではうるさかつた、汽車の中ではさうざうしかつた。
十二時、徳山下車、白船居訪問、こゝでもよばれる、旧友のなつかしさ。
三時の汽車で山口へ、四時着、Y君を訪ねる、M君を招き、三人連れで湯田の或る料亭で夕飯を食べる、飲みたいだけ飲み、しやべりたいだけしやべつた、Y君の沈黙とM君の饒舌とは変な対照だつた。
夜ふけて帰山、私はY君の厄介になつた、おそくまでいろ/\話した。……
曇れば波立つ行く春の海の憂欝
島をばらまいて海は夏めく
いちにち日向でひとりの仕事
 柊屋(澄太居)
よい眼ざめの雀のおしやべり
風は初夏の、さつさうとしてあるけ
むくむく盛りあがる若葉匂ふなり
初夏の風のひかりて渦潮の
 自嘲
六十にして落ちつけないこゝろ海をわたる

早朝散歩、山口の街の夢はなか/\覚めなかつた、私には山口はおもひでのふかい街である、(熊本を第二の故郷とでもいふならば)第三の故郷といつてもいゝだらう。
九時、さよならをする、小郡の樹明君を訪ねる、久しぶりに談笑する、望まれるまゝに半折数枚書きなぐる、梅焼酎はよかつたよかつた。
小郡ではK君O君にも逢つた、小郡は私の第四の故郷とでもいはうか。
夕方、山口へ引き返してS君を訪ねあてる、私は彼の厚情にうたれた。
夜、M君に逢つてK屋で飲む、Y君はとうたう来てくれなかつた、――何だかみんな不快だつた。
いつものやうに梯子酒でおでん屋を飲みまはつた、そして酔ひつぶれて乱れてしまつた、あゝ。

五月卅日

 晴。
十時ごろ、S君の部屋から出て、湯田で一浴した、温泉は好きだけれど湯田という土地は嫌だ、湯田には私の悪いおもひでばかりがこびりついてゐる、いや、湯田が悪いのぢやない、私自身が悪いのだ。
反省――慚愧――憂欝。――
いそいで汽車に乗つて、九州へいそいだ、三時、関門を渡る、感慨ひとしほであつた。
門司で黎々火君と久しぶりに面接、おでんやでうまい酒を飲むことが出来た、うれしかつた。
電車で八幡へ、幸にしてマヽ城子君は在宅だつた、同道して鏡子居訪問、在宅、いつしよに話したり食べたり入浴したりした、井子にも逢へた。
こゝでほどよく酔うて、そのまゝ寝させて貰ふ。
案山子いかめしく、それをめぐつててふてふ
ふるさとの花の匂へば匂ふとて
 湯田
螢こいこい大橋小橋とんでくる
みかんお手玉にひとりあそんでゐる
窓をあけると風がある青田は涼し
 関門風景
渦潮ながるゝてふてふならんで――
 鏡子居
朝空の鯉幟の赤いの黒いの泳いでゐる

やゝ気分がよくなつた。――
朝、病床のT君を見舞ふ。
九時すぎて青城子居へ、奥さんの心づくしの御馳走をいたゞく、青城子君はとりつきにくい人物だけれど、とりつけばあたゝかい人物である、とにかくまつすぐにつきぬける人物である。
午後出立、黒崎まで電車、そこから汽車で赤間まで、さらにそこからバスで神湊へ、隣船寺拝登、俊和尚と握手して、しばらく/\。
前の宿屋に案内されてもてなされる、すまないと思ひつゝも食べた食べた、飲んだ飲んだ、おいしかつたおいしかつた。
ならんで寝床にはいつたが、私だけはいつまでもねむれなかつた。
 神湊海岸
砂にあしあとのどこまでつづく
晴れるほどに曇るほどに波のたはむれ
ゆく春の夜のどこかで時計鳴る
遠く来てひでり雲ちぎれちぎれ

六月一日

 曇。
興亜奉公日、酒はないけれど――それがあたりまへで――ありがたくも朝食は純日本米だつた。
八時すぎてバスで出発、さよなら/\ありがたう/\。
正午前、赤池着、駅前で理髪して緑平居を訪ふ、出勤不在、奥さんがさつそく、やつこ豆腐とビールとを出して下さる、おいしくいたゞく。
緑平はなつかしい、緑平居はなつかしい。
夕方、主人帰宅、快食快食。
おそくまで寝物語、あゝ緑平はなつかしい。
 緑平居
どうやら雨になりさうな茄子苗も二三

六月二日

 晴、曇。
こゝマヽでも純日本米を味つた、日本人といふことについて考へさせられる。……
午前中は一人で悠々。
二時、お暇乞する、四時若松で乗船、波おだやかに四国へ、私自身の寝床へ。――
船中では誰もが南京虫にやられて、ぽり/\からだをかきながら苦笑してゐる、飯は純外米、ぽろ/\こぼれる、ボロ船だけれど、ごろ/\寝てゐるうちに東へ東へ、南へ南へ。――

六月三日

 晴。
朝明けの風景はうつくしくたのしかつた。
大空の下、大海の上。
船脚がおくれて、高浜へ着いたのは十一時近かつた。

六月四日

 晴。
休養。
夏を感じる。
買物に出かけて、そしてほろ/\ぼろ/\。
……………………………
はだかへ木の実ぽつとり

……深更、酔うて帰る途中、すべつてころんだ、額をすりむぎ、眼鏡が壊れ、帽子が飛んだ。……
罪と罰! 因果必然、ごまかせないのである。

六月廿八日

 曇――雨。
一洵老来庵、おちついた私を見て貰ふ、愚かな私は五十九歳にして五十九年の非を覚つたのである。
暑い、暑い、みん/\蝉の初声を聞いた。
たま/\屑屋さんが来て、古新聞やら古俵やら買うてくれた、大枚壱円三十四銭也、助かつた、さつそく出かけて買物いろ/\。
蠅、蠅、蚊、蚊。――
蠅は打つことも出るマヽし我慢が出来ないこともないが、蚊には困る、いつでもどこでも、だまつてちくりとやる、痒い痒い。
今夜もたうとう眠れなかつた、二晩つゞけての徹夜である、私は弱らない、私の身心は澄みとほるやうだ。
   今日の買物
五十四銭 酒二合
十一銭  赤味噌百目
八銭   玉葱二百目
八銭   蠅捕紙二枚
六銭   豆腐一丁
四銭   ちさ一把

六月廿八日

 雨――曇。
道後で一杯ひつかけて温泉浴。
時々アル中の発作に襲はれる、身辺を幻影しきりに去来する。
夜、さびしいので汀火骨居を訪ふ、不在、ひきかへす、途中うどんを食べる、うまかつた。

降つた、降つた、……どしやぶりのこゝろよさ、十分に降つた、十分な水をめぐまれた。
歩々生死、易の研究を思ひ立つ。
身心整理。――
  友のたれかれに――
――さん。
私にもやうやく一転化の機縁が熟しました、虚脱的雲霧が消散して、私本来の天地に立ちかへりました。
梅雨は梅雨らしく、そして山頭火は山頭火らしく。
苦しい切ない悩ましい三ヶ月でありました、生死混沌の泥沼彷徨でありました。
すなほに、ほがらかに、貧しくてもつゝましく、私は私みづからの光となりませう。
応無所住而生其心――まだこの一転マヽが出来ません。
いづれちかくまた。

人間が――殊に自分自身が臭くて臭くて時々堪へきれなくなる、私が特異体質だからか。
酒よりも米、そして米よりも――何が大切か!

七月一日

 半晴半曇、興亜奉公日。
早起、手早く掃除して、護国神社参拝。
反省自粛、限りなき悔恨、つゝましい覚悟。
食べるものがない、財布をはたいてみたら四十七銭ある、それを持つて出かけて外米一升! 三十八銭也。
晴れてくるほどに暑くなる、洗濯などする。
まつたく煙草がなくなつて昨日から我慢してゐたが、時々一服やりたいなと思ふ、一杯ひつかけたいと思ふよりも。
夕方、やつとバツトにありついた、ありがたう/\。

七月二日

 晴。
けさも早起、おとなりの時計が五つ鳴つた。
身辺整理、捨てられるだけ捨てる。
どうやら梅雨も早目に上つたらしい、暑くなつた、真夏真昼の感じがあつた。
夕方から一洵老徃訪。
“あるときは王者のこころ
 あるときは乞食のこころ
 生きがたく生く”

七月三日

 快晴。
早寝早起、それを実行しつゝある。
郵便は来たけれど、待つてゐる郵便物は来なかつた、昨日も今日も文字通りの無一文!
大空のかゞやき、日光の強さ、本格的夏になつた。
暮れると待ちきれないで大街道へ、例の店で、カケで、一杯ひつかける、この一杯はこたえた、こたえましたよ。
夜はまた散歩、無水居、和蕾居、三人で四方山話。
ぐつすり睡れた。

七月四日

 晴。
雲影もなく晴れわたつて、かゞやかしい太陽がしづかに昇る、夏の朝はよいかな。
けさは食べるものがない、水を飲んですます!
学校に一洵老を訪ねたが会へない、居宅へまはつて奥さんから混合米一升だけ借りる。
ありがたい一升であり恥づかしい一升である
このあたりもやうやく田植が初まつた、一日のうちにたちまち青田になつてしまつた、よい風景である。
欧亜の風雲いよ/\急、一隅にせぐゝまる私のやうなものも心臓がどき/\うごく。
或る俳人来訪、とりとめもないことをしばらく話し合つたが、彼は少々変だつた、彼は礼を知らないらしい。
夕の散歩で一杯一服にありついた、ありがたう。
和尚さん来談、蚊に喰はれつゝ世間話をした。
快食、そして快眠。
貰ふといふことは有難いよりも尊い私には貰ふ資格はない、それほど私は練れてゐない、磨かれてゐない。

七月五日

 晴、晴、晴。
あまりに早い早起。――
まづ東雲神社の大鼓、それから護国神社の大鼓、それから、それから。――
夏はよいかな、朝はことによいかな。
けさも待つものは来なかつた、私は私としては禁酒に近い節酒を守つてゐる。
“颱風一過の心境”
昼寝から覚めて雲の峰を観る。
門外不出の心がまへで、独坐閑読。
夕の散歩は田舎へ、夾竹桃一枝頂戴した。
ぐつすりねむれた。

七月六日

 晴。
朝明けのよろしさ。
すなほにそしてつゝましく。――
来ない来ない、待ちくたぶれた、来ない来ない。
――まつたく悪夢だつた、さういふより外に、今春の私の行動を形容する語句はない、あゝそれはまつたく悪夢だつた、今、私は時代と共に歩調を合せて精進することが出来るやうになつた、時局の認識不足といふよりも、自我の分裂だつた、私はやうやく私本来の風光をとりかへしたのである。
勉強しよう、勉強しなければならない、私は俳人として日本文芸に能ふかぎり寄与しなければならない。
今日もずゐぶん暑かつた、毎日三十度以上、まるで土用の暑さである。
夕はいつものやうに散歩、それから読書。
“一草閑話”
  豆腐と沢庵漬

七月七日

 曇。
事変三周年記念日、あらゆる意味で感銘の深い今日である、今日の認識をしつかり把持せよ。
早朝、護国神社参拝、個人も団体も陸続として参拝する。
正午、一億一心遙拝黙祷。
或る事で、恥ぢる心を恥ぢる、矛盾のかたまりだ!
おとなりから米一升借りる、つらいな。
ちよい/\一杯やりたくなつて困ります。
夕は散歩、城山をまはつた。
ふと眼覚めると、よい雨の音があつた。

七月八日

 曇。
小鳥はうたふ、疑ふことなく憚ることなく、たのしげにそしてほがらかに。
朝から暑い、蒸暑さは苦しい、いちにちはだかで。――
うらからおはぐろとんぼがひよろ/\通りぬけてはゆく。
柳河から句集代落手、ありがたう、助かつた、さつそく街へ出て買物いろ/\、限られた銭で限りもない品だから、考へ/\買うたことである、一週間ぶりに銭の顔を見た!
逓友選句を了へる、ほつと安心する。
久しぶりに――ほんに十日ぶりに道後の湯へ、残念ながら一杯にはありつけなかつた(今月はまだ二杯しか頂戴しない、そしてぢつとこらへてゐるのだから私の酒癖もたいへんよくなつた)。
どうしたのか――船に故障でもあつたのか――午前中はどの新聞も来なかつた、新聞のない朝は歯がぬけたやうなさびしさを感じる。
夜は一洵居へ――柿の会出席、出席者は少なかつたけれど――月邨夫妻、一洵老、和蕾君、そして私の五人――おちついて、しんみりした会合だつた。
帰庵したのは十二時に近かつた、食べ残しの御飯をたべて、文藝春秋を読んでゐるうちに、いつしか夜が明けてしまつた。……
不眠不能と、そのいづれを。――
   今日の買物
二十二銭  ハガキ切手
三十銭   経木帽
七十六銭  外米二升
二十三銭  押麦一升
三十銭   バツトはぎ
三十銭   理髪料
四銭    入浴料
六銭    豆腐一丁
五銭    沢庵半本
七十銭   電燈料
  〆金弐円九十六銭也
  差引残金四銭也

七月九日

 曇。
未明地震、眼が覚めたのですぐ起きる、東雲神社の大鼓、それから護国神社の大鼓。
八雲書林から来書、印税の残額を貰つた、古町へ、そして大街道へ出かける、払へるだけ払ひ買へるだけ買ふ。
だいぶ酔うて戻つて、そのまゝ寝た、何しろ五六日ぶりの酒だからずゐぶんこたえた。……
今日の買物のうちで、左記の三つはよかつた。――
三十銭 梅一斤
五十銭 ラツキヨ一升
二十五銭 鯖一尾

七月十日

 曇――雨。
早起、すこし宿酔気味、すみません/\。
けふも街へ、――また飲む、一杯が二杯に、二杯が三杯に、――あゝ。――
一洵老午後来庵、少し借りる、すまん/\。――
電燈料を払うてうれしかつた。

七月十一日

 曇――晴。
めづらしく朝寝、身辺整理。
一洵老来庵、私はなぜあなたのやうに落ちつけないのか、省みて恥ぢ入る外なかつた、いよ/\明日山陰へ出て京都大阪から東京への旅行に出るそうだ――私はさびしい。
炎天合掌。
世界の風雲いよ/\ます/\急なり。

澄君から、朔君から小遣拝受、感謝で胸がいつぱいになる。
出かける、あれこれ買物、そして“歴史”観覧、近来にない好映画だつた。
午後、大夕立があつた、何もかも洗ひ流してしまふ愉快だつた。
夜はよくなかつた、ほろ/\がぼろ/\になつた、とろ/\がどろ/\になつた!

ダメ、ダメ、ダメ、――自己に失望し、ともすれば絶望する、――しつかりしろ、山頭火、――山頭火、最後の精進をしろ!
熊蝉が鳴きだした。
けふも午後驟雨があつた、痛快だけれど多少の心配がないでもない。

七月十四日

 曇――風――雨。
身心何となく不調、心正しからざれば体正しからず、体正しからざれば心正しからず、私はそれを私自身で立証した、悲しい事実である。
颱風の余波が吹きまくつた、私自身のやうに。

七月十五日

 曇――雨。
自戒自粛、昨日も今日も門外不出、ひたすら謹慎した。
降つた、降つた、かう降つてはことしも水でまた苦労するだろう、水がありすぎて!
人間の我利、人間の希求、人間の立場
大山君から近著“尊皇と禅”を贈られてゆつくり読む、杉本中佐、寺原少佐の純真にうたれる。――
……貴著しみ/″\拝読しました、そして恥ぢ入りました、自分の貪――酒に対する執着――を呪ふ外ありませんでした。……

七月十六日

 曇、時々雨。
夜明ちかく雷雨、すぐ起床。
純真一路の生活へ。――
厚志を持つて道後へ、それから松山へ、“歴史”第二部第三部を観た、よかつた、T屋で夕食、五十五銭、おいしかつた。
天候沈欝、私自身も沈欝。

七月十七日

 曇――晴――雨。
とう/\護国神社の大大鼓。
亡弟二郎の祥月命日(推定)、甘い物を供へて回向する、あゝ彼は愚直すぎた!
朝酒少々あり、もつたいなし。
糊付け法をおとなりの奥さんからおそはつて、浴衣や肌着を糊付けする。
晴れるほど暑かつた、一洵老来庵。
身辺整理、文債書債など。
暮れ方からまた夕立模様となつた。

四時起床、明けゆく天地のよろしさ、ありがたさ。
不平なく、反省しつゝ。――
米麦を買ふ、外米二合押平麦一合が私の一日の糧である、感謝の生活、感謝を忘れたる時は堕落したる時である。
朝飯ぬきの昼飯を早目にいたゞく、十分に、十分すぎるほどに。
午後は道後の湯へ。
米内首相退職、組閣の大命は近衛公へ下つた、――日本は東洋は世界は急速度に転換しつゝある、旧制度は刻々に崩壊し新秩序が刻々成立しつゝある、――私達は切に切に時局の安定を希求する、それを実現するために強力政治を熱望する、――現状維持派よ、退却せよ、新人登場せよ、過渡的生活を止揚して新生活を建設しよう。――
あるがまゝの世界
なるがまゝの人世

磨き、そして冴え

早く眼覚めたけれど、あまり蚊が多いのでぢつとして明けはなれるまで待つてゐた、流れ入る朝、あゝ朝はよいかな、ことに夏の朝は。
短冊や半折や茶掛を書きあげるつもりで、墨を磨り紙を展げたが、どうにもかうにも気が乗らないので、酒代を借りて街へ出かけた、そしてあゝ、私はまた私の最も悪い一面をさらけだした!
馬鹿! 阿呆! 馬鹿! 阿呆! 何といふ醜態だ、何といふ愚劣だ!
自制
“自律生活”

七月廿日

 晴、土用入。
たへがたい沈欝。――
――一切我今皆懺悔、私は跪いて祈つた。――
午後、雷鳴だけであまり降らなかつた、そこにも私は私自身を観た。
自制、尊いのは自制である、自制は生活の軌道である。……
自由律――自然律――生命律

七月廿一日

 晴――曇。
身心やゝ落ちつく。
午後は道後へ、一浴一杯。
明るいうちから蚊帳に籠つて読書。
無事、あまりに無事な。――

七月廿二日

 曇――晴。
待つものは来ないで藪蚊がやたらに螫すので、すこしばかりいらだつ。……
文債書債をすつかりかたづけた、ほつかりする、今日はとりわけて暑かつた、三十度を何度昇つたらうか。
ポストまで出かけたついでに――
労研饅頭一包――十銭
胡瓜一本――十銭

“一事一心”
   ┌鬼………神┐
芸術の┤     ├作家の生活
   └芸………道┘

日日好日也、事々また好事也。
新国民生活体制、――私もその第一歩に歩調を合せる、――清新、強剛、信頼、勤労。――
午後、夕立、涼しくなつた。
道後へ、一浴して一杯なし! 今日は途中で下駄が割れたのでひさしぶりに跣足で歩いた。
夜は珍らしく道後の方面から三味の音が聞えた。

七月廿四日

 晴、時々曇る。
早朝、護国神社参拝。
朝の涼しさ、何となく秋を感じた、“土用なかばに秋の風”である。
ありがたう、健よ、ありがたう、――さつそく街へ出かける、払へるだけ払うて、買へるだけ買うて、そして飲めるだけ飲み食べるだけ食べた、――ありがたう/\。
蓴子から贈物到着、いろ/\の品物がいれてあつた、鮪の生節はうれしいものだつた、おとなりへ、お寺へ少しづゝお裾分けした。
午後、道後へ、――それからまた夕方、古町へ、何となく淋しいのである、無水と俳談しばらく、帰途は大街道へまはつたがおとなしく帰庵してやすらかに寝た。
今日はほんたうに大出来だつた、善哉々々! 夏祭(天神祭)で人出が多かつた。

七月もおはりにちかい、あゝあゝ、ことしもなかばをすぎた、あゝあゝ、わたしも六十になる、あゝあゝ。
けさもいつものやうに早起したけれど、胃腸のぐあいがよろしくない、飲みすぎのせいだ、のんべいの宿命だ! 自粛々々。
好きな昼顔を活けて自から慰める。
けふも午後は道後へ、一浴一杯は幸福々々! 炎天照る々々、照れ々々炎天、ほんにおいしいお酒でありました、そしてだん/\ほろにがくなる酒でありました。……
夜は古町方面へ、和蕾居で漫談。
それから、ひよろ/\、どろ/\、ぼう/\、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、――ダメダ!

朝早く、はだしで練兵場を歩きまはつた、落した物は落ちてゐなかつた。……
反省、当分謹慎しよう、しなければならない、せずにはゐられない。――
自分そのものは捨てきれないのに。……
恥づかしいけれど、おとなりから米一升貸していたゞいた。
ぽかんとして今日一日を過した。
入口の蜂の巣を詮方なくとりのぞいたら、蜂がかへつてきていつまでも離れないで鳴いてゐた、あはれであつた、生きもののあはれである。
一草閑談

七月廿七日

 晴、朝は曇。
こゝろすなほに、――ようねむれた。
マヽ門俳人伝を読む。
夕方、初めて今年の法師蝉が鳴いた、まだ、ツクツクボウシの調子がうまくない。
こんやもぐつすり。――

起きてから四時が鳴つた、身心平安。
午後、道後へ、途中、とても暑かつたが、土用の照込はうれしい、見よ、いちめんの青田がゆたかにそよいでゐる、まことにこれやこの豊葦原の瑞穂の国のありがたき風景。
今はマヽ一草庵異変ともいふべき出来事があつた、湯を沸かしてゐるとき、土瓶の底が抜け、おまけに火床がくづれたのである、縁起のよい事ではない、食へなくなる! といふ前兆かも知れない!
謹慎謹慎、自重自重。
夕方、散歩がてら貸本屋まで出かけて、婦人公論を借りて帰つた。
国民生活がだん/\緊張して来たことは何よりもうれしい、新体制が漸次結成されつゝある、東亜新秩序の確立は厳粛な事実でなくて何であるか、現実を正視せよ、日本人としての自覚を実現しなければならないのである。――

とても早起だつたが、御飯がないので――お米もないので、柴茶を飲んでこらへる。――
護国神社参拝、いつも参拝がたえない、このごろことに多い。
腹が空つてやりきれなくなつたので出かける、恥を忍んで一洵老の奥さんから米代少々借りる、身慄ひするほど恥づかしかつた、酒も巻煙草も抑へつけて、買へるだけ米と麦とを買ふ、今日の私は多少どうかしてゐる、釣銭を少しばかり貰ひそこなつた、――ぼんやりすることも時々は悪くない。
暑い暑、マヽあまり暑いので道後へは行かなかつた。
電燈屋さん、すみません、新聞屋さんにもすまなかつた、小遣が欲しいなあと嘆息する。
暮れてから豆腐屋へ、やつこほど単純な料理はあまりあるまい、うまいまづいを超えたうまさである。
散歩、夕焼雲を眺めてゐるうちに何となくさみしくそしてうらかなしくなつた。……

七月三十日

 曇――晴。
おちつけおちつけ、来ない来ない、待つてゐるもの来ないけれどおちついてゐなければなりません。
道後へ、一浴して一杯を忘れる、髭を剃つたので、さつぱりした。
熟睡、快眠、まことに幸福々々。
“粒々皆是菩薩”
荒地の痩米の生命力

七月三十一日

 晴――曇。
五時起床、おだやかな朝明だつた。
やつと質を入れて利あげをする。……
午後、道後へ出かけたのが失敗の基だつた、一週間ぶりにひつかけたので悪酔して、無茶苦茶、いつもの無軌道ぶりを展開した、財布もなくなるし、恥も外聞も忘れるし、たうとう交番の厄介にまでなつた! それでもどうやらかうやら戻つてくることは戻つてきたが。――
愚劣、愚劣、愚劣といふより外ない! どうして私はこんなに弱いのか、あまりに弱い、弱すぎるではないか!
前後不覚、自他忘失、……あゝ!

八月一日

 晴。
興亜奉公日、その一週年記念日。
酒を飲め、飲まずにはゐられないならば、――酒に飲まれるな、酒を飲むならば。――
暗欝、自責の苦悩に転々する、終日黙々として謹慎する。
もくもく蚊帳のうちひとり食くふ
この苦悩は私のみが知つてゐる、それを解消するのは私だけである。
かなしいかな、あゝ、さびしいかな。

八月二日

 曇。
身心やゝ軽く。――
B亭の妻君来庵、掛取也、今更のやうに今春の悪夢を反省させられる。
終日黙坐、麦ばかりの御飯を少々戴いて。
あるがまゝに受け入れて、なるやうに任しきらう。
事にこだはるな、物にとゞこほるな、自己に侫るな、他己に頼るな。
“私は旧生活体制を清算する。
そして
私は私の新生活体制をうち立てる。
そこで
改巻する。――”
(八月三日朝)

○一遍上人(證誠大師)
┌道後、宝厳寺   古塚や恋のさめたる柳散る   子規
└内子、願成寺
○城北寺町
寒月や石塔のかげ松のかげ   子規

黄鶴一度去不復返
        (李白)
白雲千載空悠々

底本:「山頭火全集 第十巻」春陽堂書店
   1987(昭和62)年11月30日第1刷発行
   1991(平成3)年3月20日第4刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※複数行にかかる中括弧には、けい線素片をあてました。
入力:小林繁雄
校正:仙酔ゑびす
2010年7月11日作成
2011年1月17日修正
青空文庫作成ファイル:
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