幕の為に論ずれバ、近日要路に内乱起り、相疑相そしり益不通と言勢となるべし。
当時実に歎ずべきハ伏(見)にとりのがしし浪人の取落セし書面を以て、朝廷にもぢいて論にかけ、ついに会津人陽明家をなじり此郷(ママ)御立腹など在之候よし、したしく聞申たり。
是幕中内乱を生じ申べき根本たるべし。
当時ニ在りて幕府をうらみ奉るもの在れバ、天幸の反間と申べし。(彼浪人「其人」)ハ伏水の事位ニてハ決して幕をうらみ申よしなし。
然レ共万一うらむが如きハ幕府目下のうれいとなるべし。故ハ浪人ハ関以西強国と聞へし君主、及要路のものと信を通じ有る事、彼飛川先生が天下人物と信を通ずるが如し。彼長の芸州の事の如きハ今時ハ不絶聞事なり。長の方へハ幕情不通なり。
長ハ唯だまされぬ心積計也。此情を通センと思が如きハ、右浪人ニ命セバ唯一日ニして事をわらんのミ。今幕の勢を見るに兼而論ずるが如きよふニ長をうつニ力なく又引取らんニハよしなき也。其論且所置を見て天下皆是を笑ハざるなく、是必近日の事今より可見、実に不言。
幕為ニ今の勢を以て論ゼンにハ幕府ハ一決断を以て浪輩を引取り、江戸において政を大ニ改メ、将軍自ら兵士に下り、日※(二の字点、1-2-22)胆をなめはぢを忘れたるやの古事さへ忘れずバ、今十年間八州を以て又天下をたなごゝろとすべし。目今大不幸、官吏皆因(習)、是又天下の不幸――
三月――

底本:「龍馬の手紙」宮地佐一郎、講談社学術文庫、講談社
   2003(平成15)年12月10日第1刷発行
   2008(平成20)年9月19日第7刷発行
※底本手紙写真のキャプションに、(東大史料編纂所蔵)とあります。
※丸括弧付きの語句は、底本編集時に付け加えられたものです。
※直筆の手紙の折り返しに合わせた改行は、省いて入力しました。
入力:Yanajin33
校正:Hanren
2010年11月11日作成
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