あらすじ
旅をする五人の侍は、山道で傷ついた猿を見つけます。侍たちは互いに猿を殺そうとしますが、猿は傷が癒えて元気になっていきます。しかし、広大な野原で食料に困った侍たちは、猿を殺さなければ生きていけなくなります。侍たちは猿を殺そうとしますが、なかなか決心がつきません。やがて、遠くに見えた村に希望を見出し、侍たちは猿を殺すことなく村へ向かいます。「アノ サルヲ キラウ。」
「サウダ、ワタシガ キル。ワタシハ モウ 一ツキアマリ カタナヲ ヌカナイノデ、ウデガ ムヅムヅスル。」
「イヤ、ワタシガ キル。ワタシノ カタナハ ヨク キレル。」
「ダメダ ダメダ、キミラノ ウデデハ サルヲ トリニガシテ シマフ。ワシガ キル。」
「オネガヒダ、ワタシニ キラセテ クレ。」
ケレド、ヨク ミルト、ソノ サルハ ビヨウキニ カヽツテ ウゴケナク ナツテ ヰマシタ。ビヨウキノ サルヲ キツテモ シカタナイト イフノデ、五人ノ サムライハ、ソノ サルヲ ツレテ ユキマシタ。ヤガテ サルハ、ビヨウキモ ナホツテ 五人ノ サムライニ ヨク ナレマシタ。トコロガ、マイニチ イツテモ イツテモ ヒロイ ノハラデ タベモノガ ナイノデ サルヲ コロシテ タベナクテハ ナラナク ナリマシタ。
「オマヘ キレ。キリタイノダラウ。」
「イヤ、オマヘ キレ。オレノ カタナハ ハガ コボレテ ヰル。」
「オマヘハ ドウダ、ウデガ ムヅムヅシテルンダラウ。」
「ウーン、ダメダ、オナカヾ イタイカラ。」
ソノ ウチニ ノハラノ ムカフニ ムラガ ミエテ キマシタ。
「アツ ムラダ。アソコヘ ユケバ タベモノハ アル。サルハ コロサナクテ ヨイ。」
五ニンノ サムライハ サルヲ キラナクテ ヨカツタ コトヲ、メニ ナミダヲ タメテ ヨロコビマシタ。
了
底本:「校定 新美南吉全集第四巻」大日本図書
1980(昭和55)年9月30日初版第1刷発行
1987年(昭和62)年2月15日第3刷発行
初出:「がちょうの たんじょうび」羽田書店
1950(昭和25)年5月5日
入力:高松理恵美
校正:川向直樹
2004年7月15日作成
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