小山君の、時としては自らこれに酔ふ如きかの音楽的幻想は、次第に現実の肉体によつて置き代へられつつあるが、その観察は、常に新鮮であると同時に、またややもすれば装飾的である。主題の流れに添ふものとしては、切り捨てるべき部分がなくもない。ただ、作者ならずとも、これは惜しいのである。
舞台ではそれゆゑ、刻々の幻象を、精密に、完全に生かし出さなければ、自然空隙が目立つか、平板に陥り易いといふことになる。
俳優の努力もひとしほであるし、見物の心構へも亦これに相応したものであつてほしい。
要するに、小山君は、瀬戸内海が生んだ現代有数の詩人であり、この戯曲は、新劇史上、記念すべき代表的作品の一つたることを、私は敢へて信じるものである。(一九三五・四)
底本:「岸田國士全集22」岩波書店
1990(平成2)年10月8日発行
底本の親本:「現代演劇論」白水社
1936(昭和11)年11月20日発行
初出:「築地座 第二十八号」
1935(昭和10)年4月26日発行
※初出時の題は「瀬戸内海の詩人」。
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年9月5日作成
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