あらすじ
農村の経済状況に関する書籍が続々と出版され、新聞や雑誌でも同じ問題が繰り返し取り上げられています。著者は、この現象が、政治家の商工業重視政策と対照的に興味深いと述べています。ヨーロッパの近代文明ではすでに農業の衰退が問題になっていますが、日本でも同じ問題が現れ始めており、深刻化する可能性を示唆しています。農村の振興は、国民の大多数の生活改善に繋がる重要な問題です。著者は、農村の疲弊は現実であり、その改善には理論ではなく実践的な取り組みが必要だと主張します。今までに提唱されてきた様々な意見を分析し、二宮流の勤儉貯蓄を重視する消極的なものと、農業に絶望しつつある若者に自覚を促す積極的なものの二つに分けます。しかし、いずれの方法も、副業の奨励や組合の組織など、具体的な解決策においては共通点が多いと指摘します。今これ等の方法の一々に就いて考へて見るに、皆尤もな事ばかりである。啻に尤もな許りでなく、今日農村の事情を知つてゐる者であれば、それが學者であらうと果た實際家であらうと、矢張これ以上の特に立優つた方法を考へ出すことは難かしからうとも思はれる。私自身は元來何事に對しても積極的なやり方を喜ぶ質で、隨つて封建時代の道徳を、その儘取つて以て新日本の標準道徳としようとする内閣の連中の保守思想に就いては、沒分曉でもあり不可能でもあると思つてゐるのであるが、それにしても一般都市より十年もその餘も文明の程度の遲れてゐる農村などには、二宮流の消極的道徳を極端に行ふなども、時に取つて一方法であることは拒み得ない。
了
底本:「啄木全集 第十卷」岩波書店
1961(昭和36)年8月10日新装第1刷発行
入力:蒋龍
校正:阿部哲也
2012年4月15日作成
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