あらすじ
夕暮れが訪れ、暗闇が深まっていく中で、静寂の寺院に響くのは、風で揺れる葦の葉の音と、仏像の周りを飛び回る虫の音のみです。自然の中に溶け込み、すべてが法に帰依していくような、静かで神秘的な夜の風景が描かれています。
あゝ終(つひ)の夕は来りぬ、
天昏(てんこん)に地昏(ちこん)にさはなる
不浄(ふじやう)はもこゝに亡ぶか、
洗礼女(あらはれめ)――河原(かはら)の葦(あし)に
法涙の露無量光、
新らしき生命(いのち)の慈相――

十夜(や)法会(ほうゑ)の跡さびしき、
天台の寺院の堂に、
いからしく波うつ霧や、
仏龕(ぶつがん)の虫ばむ音は、
悲しとも、これも自然が
法(のり)の座へ辿る足音(あのと)ぞ、
きけ葦(あし)のさなす小琴に、
霊のうた『血汐は白し
血は白し、こや敬虔(うやまひ)の
古瓶(ふるがめ)の封を破らず
時(とき)をまち考え伏(ふ)して
いまぞいま『自然』に浸(ひた)す、

白き血に映(うつ)れ大天(おほあめ)、
白き血を吸(す)へや大地(おほつち)
ありとある孤独(こどく)のものは
静寂の法に帰依(きえ)して
黙(もだ)しつゝ白き血飲(の)め』と、
きくからに身も溶けごゝち。

見かへれば喬木(おほき)のしげみ
天台の寺院は闇(やみ)に――
うなだれて物思(ものおも)ひ立てる
己(おの)が身も小河も葦も
大法の一切滅に
あゝなべて見えざる光輝(かゞやき)――
了

底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年8月28日作成
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