あらすじ
戦いの後、日が暮れてもなお、負傷した兵士は荒野に横たわり、苦痛に耐えながら、深い寂寞を感じています。暗く冷たい部屋で一人過ごす時、沈んだ心は闇の底へと沈み込み、孤独と絶望にさいなまれます。愛を失った心は、冷たく凍りついた寄居蟹の殻のように、寂しさと悲しみに覆い尽くされ、永遠に続くような寂寞に包まれます。
たとふれば戦ひ果てぬ、
日は暮れて二時(ふたとき)を経ぬ
なまぐさき荒野(あらの)の中(なか)に
双(さう)の眼を弾丸(たま)に射られて
なほ黒き呻吟(うめき)をしのび、
よこたはる負傷(いたで)の兵の
勇しきわかき心に、
秘(ひ)めつゝむ苦痛(くるしみ)遂(つひ)に
鈍色(にびいろ)の寂寞(じやくまく)の気(き)を
吸ふがごと嗚呼われこゝに。

くらがりの冷えたる室(むろ)に
ひとり居ておもひ沈めば、
空想(くうさう)は蠑螺(さゞえ)の殻(から)の
底つ闇(やみ)たどるがごとく、
鬱憂(うつゆう)ははた南蛮(なんばん)の
夜(よる)深き荒磯(ありそ)の上に
鋭(と)き銛(もり)を腮(あぎと)にうけて
横はる粗膚鮫(あらはだざめ)の
断末魔(だんまつま)――濁りゆく眼(め)に
無辺(むへん)なる闇を見るごと。

愛(あい)消えし人(ひと)の心は
霜の夜の渚(なぎさ)の泥(ひぢ)に
まみれたる寄居蟹(がうな)の殻(から)の
冷やかに凍(こほ)れたるごとし、
土色(つちいろ)にはた青銅(せいどう)の
巨鐘(おほがね)の銹(さび)のやうなる
寂寞(じやくまく)の五百重(いほへ)のなかに
一瞬(いつしゆん)も千とせのおもひ、
あゝかゝる日の凶時(まがどき)に
人は死に、花は萎(しを)れめ。
了

底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年1月27日作成
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