あらすじ
友への切ない想いを、美しい比喩を用いて歌っています。深海の珊瑚の宮で恋を得た友への羨ましさ、そしてその羨ましさから生まれた苦しみと、それを乗り越えようとする強い意志が、力強く表現されています。
友(とも)よ恨(うら)まじ今日(けふ)よりは
ねたまじ、君(きみ)は濃藍(のうらん)の
底見(そこみ)えわかぬわたづみの
珊瑚(さんご)の宮(みや)に恋(こひ)を得(え)て
幸(さき)くあり、とに思(おも)ひ止(や)まむ。

濃藍(こあゐ)たゞえて見(み)えわかぬ
わたづみ底(ぞこ)の恋(こひ)なれば
誰(た)が子(こ)誰(た)が子(こ)の手(て)をとりて
口(くち)つけかはし笑(ゑ)みかはし
ありともいかで名(な)を知(し)らむ。

恋(こひ)を恋(こ)はれぬ嫉妬(ねたみ)もて、
相合(あひあ)ふ魂(たま)を咀(のろ)ふとも、
三月(ぐわつ)尽(じん)の百蓮華(びやくれんげ)
得(え)やは枯(から)さむあたゝかき
蕾(つぼみ)ふくめる緋牡丹(ひぼたん)を。

寄藻(よりも)の花(はな)も匂(にほ)はざる。
荒磯(ありそ)の辺(ほと)り、夏(なつ)の日(ひ)に
照(て)り晒(さ)らされて帆立貝(ほたてがい)
帆(ほ)を失(うし)なひぬ、砂(すな)の上(へ)に
歯(は)をくひあてゝ滅(ほろ)ばゞや

とおもひにしも怨疾(をんしつ)の
膿(うみ)に悩(なや)める昨夜(よべ)なりし、
帆(ほ)を失(うし)なひし貝(かい)ならば
今日(けふ)より思(おも)ひ安(やす)からむ、
荒磯(ありそ)の上(うえ)や寂光土(じやくくわうど)――

ねたみくづれし花(はな)ならば
今日(けふ)よりなげきあらためむ、
法(のり)の雨(あめ)降(ふ)れあゝさらば、
乱(みだ)れて飛(と)びし花片(はなびら)を
濡(ぬ)れ朽(く)たしめよ土着(つちき)せよ。

日毎(ひごと)夜毎(よごと)に死(し)にかはり
死(し)にかはりてもあゝ友(とも)よ
ねたまじ友(とも)の恋人(こひゞと)よ、
こひねがはくは円(まど)かなる
愛(あひ)の光(ひか)りを仰(あふ)がしめずや。
了

底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年12月24日作成
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