あらすじ
深い水底に沈むような、切なくも美しい愛の物語です。二人の男女は、世間の目を気にせず、水底のように静かで深い愛情を育みます。しかし、その愛は、水面に映る光のように、儚くも脆いものでもありました。静かに、しかし確実に、二人の心の奥底に渦巻く感情が、静寂を破り始めるのです。
水の底、水の底。住まば水の底。深き契り、深く沈めて、永く住まん、君と我。
黒髮の、長き亂れ。藻屑もつれて、ゆるく漾ふ。夢ならぬ夢の命か。暗からぬ暗きあたり。
うれし水底。清き吾等に、譏り遠く憂透らず。有耶無耶の心ゆらぎて、愛の影ほの見ゆ。
――明治三十七年二月八日寺田寅彦宛の端書に――

底本:「漱石全集 第十二卷 初期の文章及詩歌俳句」岩波書店
   1967(昭和42)年3月30日発行
※底本巻末の編者による注解は省略しました。
入力:フクポー
校正:きゅうり
2019年11月24日作成
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