あらすじ
ある馬が、ひるね中に片方の足がしびれてしまい、自分の足ではないと思い込みます。様々な物を蹴飛ばし、自分の足を探し回るのですが、見つかりません。そして、自分の足だと確信していた友人の足を蹴飛ばした時、ようやくしびれが戻り、自分の足だったことに気づきます。すると、すずしい風がでてきたので、一ぴきがくしゃめをしてめをさましました。
ところが、あとあしがいっぽんしびれていたので、よろよろとよろけてしまいました。
「おやおや。」
そのあしに力をいれようとしても、さっぱりはいりません。
そこでともだちの馬をゆりおこしました。
「たいへんだ、あとあしをいっぽん、だれかにぬすまれてしまった。」
「だって、ちゃんとついてるじゃないか。」
「いやこれはちがう。だれかのあしだ。」
「どうして。」
「ぼくの思うままに歩かないもの。ちょっとこのあしをけとばしてくれ。」
そこで、ともだちの馬は、ひづめでそのあしをぽォんとけとばしました。
「やっぱりこれはぼくのじゃない、いたくないもの。ぼくのあしならいたいはずだ。よし、はやく、ぬすまれたあしをみつけてこよう。」
そこで、その馬はよろよろと歩いてゆきました。
「やァ、椅子がある。椅子がぼくのあしをぬすんだのかもしれない。よし、けとばしてやろう、ぼくのあしならいたいはずだ。」
馬はかたあしで、椅子のあしをけとばしました。
椅子は、いたいとも、なんともいわないで、こわれてしまいました。
馬は、テーブルのあしや、ベッドのあしを、ぽんぽんけってまわりました。けれど、どれもいたいといわなくて、こわれてしまいました。
いくらさがしてもぬすまれたあしはありません。
「ひょっとしたら、あいつがとったのかもしれない。」
と馬は思いました。
そこで、馬はともだちの馬のところへかえってきました。そして、すきをみて、ともだちのあとあしをぽォんとけとばしました。
するとともだちは、
「いたいッ。」
とさけんでとびあがりました。
「そォらみろ、それがぼくのあしだ。きみだろう、ぬすんだのは。」
「このとんまめが。」
ともだちの馬は力いっぱいけかえしました。
しびれがもうなおっていたので、その馬も、
「いたいッ。」
と、とびあがりました。
そして、やっとのことで、じぶんのあしはぬすまれたのではなく、しびれていたのだとわかりました。
了
底本:「ごんぎつね 新美南吉童話作品集1」てのり文庫、大日本図書
1988(昭和63)年7月8日第1刷発行
底本の親本:「校定 新美南吉全集」大日本図書
入力:めいこ
校正:もりみつじゅんじ
2002年12月26日作成
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