あらすじ
故郷を離れ、東へ向かう若者がいました。彼は、見送りに来た家族や友人たちの温かい励ましの言葉に、胸がいっぱいになります。旅立ちの別れは、言葉にできないほどの寂しさで満たされます。しかし、彼を支えるのは、家族の愛情と、未来への希望です。旅路は長く、困難も待ち受けるでしょう。それでも、彼は故郷の思い出を胸に、未来に向かって歩き出します。
父(ちゝ)ぎみはしはぶき二つ、
母(はゝ)ぎみはそよ一雫(しづく)、
瀬戸(せど)の海、東(ひがし)をさしし
三日(みか)まへに我を見ましぬ。

世馴(よな)れざる野がくれわらべ、
手文筥(てふばこ)を封(ふう)じもあへず、
ゐざり出(い)て閾(しきゐ)の端(はし)の
柱(はしら)抱(だ)き面(おもて)かくしぬ。

いとほしや小(ちさ)き学生(がくしやう)
いくとせを東(あづま)の京(きやう)の
旅(たび)に寝(い)ね旅(たび)にねざめて
文(ふみ)のわざいそしまむとや。

口(くち)軽(かろ)く胸(むね)冷(ひや)やけき
旅館女(はたごめ)の待遇ぶりに、
慨(なげ)きては、雨(あめ)の夕(ゆうべ)の
欄(らん)に、おゝ、何のおもひで。

いとほし、と涙もろに、
叔母ぎみは守袋(まもりぶくろ)を
てづからにやさしうかけて、
わが背(せな)をそと撫(な)でましぬ。

をりから車(くるま)気近(けぢか)う、
婢女(はしため)、荷(に)をとゝのふれば、
父ぎみはいとおごそかに
健(けん)なれ、とそれよ一言。

母(はゝ)ぎみよ乳母(うば)よ叔母(をば)ぎみ、
朝露(あさつゆ)に五町(てふ)濡(ぬ)れ来て
さらばよの御声(おんこゑ)ごえや、
やわらかにその尾をいきて
野の鶏(とり)の声も流れつ。
了

底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年10月24日作成
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