あらすじ
深く、静寂に満ちた闇の中、一人の魂が揺り動かされます。それは、夜半の戸に額を垂れ、激しく燃え盛る炎のような情熱を抱く、孤高の存在。
長い年月をかけ、深い闇に飲み込まれながらも、その魂は、小さくも力強い炎の光を宿し、やがて壮絶な輝きを放ち出すのです。
それは、燃え盛る野火のように、自身のすべてを燃やし尽くす覚悟をした、一人の王者の物語。
この世のすべてを焼き尽くすほどの、激しい情熱と、命を賭けた決意が、詩行に刻み込まれています。
気も遠く世も消え/\や
丑三つの森の奥の
白檀(びやくたん)ほのにくゆり
木薩地(こさぢ)しづき頃ほひ。
魑魅(すだま)が気夢にふれて
孵(かへ)りし我(われ)かの心地。
皐月闇(さつきやみ)霊気ばしる
夜半の戸に額(ぬか)を垂れて
あゝ堪へ難き胸の狂火(くるひゞ)。
雛よばふ焼野の雉子の

闇睨む眼か きらに
燃え飛ぶ野火の遠火の
青火魂(あおひだま)――あなやの刹那。
魄霊(なほしび)ゆらに揺ぎつ
讃歌(さんか)咽喉(のみど)をあふれて
狂ひ心地、小手招き、
いと深き闇のをちに
認め得し小さき焔(ほのほ)の后(きさい)。
五十年(いそぢ)のわが歌の世を
上下(かみしも)の永劫に
うるはしくも霊妙(いみじ)く。
不滅の光明(ひかり)の宮の
常虹(とこにじ)の御座(みくら)の上(へ)。
われ生命(いのち)の王者が
斎(いつ)かれむほのほの后(きさい)
猛火(くわ)の天衣(てんね)左手(ゆんで)に
着代(きかへ)をすゝむる情(じやう)の素振(そぶり)よ。

この時白隼(しらはや)とびて
天(あめ)の世に拍手(はで)打つ音(ね)もす
くつがへれ今のこの世
我こそは理想(おもひ)の宮に
ひとり笑む王者なるぞ。
焔そは燃ゆるもの
身の膏(あぶら)しぼるものか。
あゝ好し、后(きさい)に参(まゐ)る。
焼けても人世(じんせ)の外に活くべし。
了

底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
※表題は底本では、「焔(ほのほ)の后(きさい)」となっています。
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年3月26日作成
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